色と認知

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 色と認知(1)

物の色が見えるということは、物体に反射した光が目に届き、それを頭の中で色として認識することだ。

【可視光線】 波長が360nm-830nmの電磁波のこと。
【物体表面への反射】 物体表面に存在する化学物質に応じて、可視光線のうちある特定のスペクトルが吸収され、それ以外のスペクトルが反射される。
【網膜への感覚刺激】 網膜内には錐体とかん体という細胞があり、このうち錐体には以下の三種類がある。
   ・赤の波長に反応するもの
   ・青の波長に反応するもの
   ・緑の波長に反応するもの
 さらにかん体は色の明るさに反応する。

錐体、かん体から伝わった光の刺激は、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞によって情報処理され、神経節細胞において赤-緑と青-黄の2対の反対色チャンネルの情報に変換されて、神経節細胞から視神経を通じて脳へ伝えられる。

【神経節細胞】 網膜の一番内側にはマグノ細胞(大細胞)とパーボ細胞(小細胞)と呼ばれる神経節細胞がある。パーボ細胞では光の情報は赤-緑、青-黄という2種類の反対色の対表現で表わされる。

これはコンピュータなどで色をRGB値で表示したり、テレビのブラウン管が赤と青と緑の組み合わせで色を表現しているのに似ている。また、テレビの色情報は伝送の段階では赤-緑と青-黄という情報に変換される。

【RGB表色系】 「R=255,G=255,B=255」(白色)などのように、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の値を0~255までの値で表わす。また、#FF0000などのように16進法で表わすこともある。
【CMY表色系】 印刷などの色指定に用いられる。色の三原色であるC(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)のそれぞれの値によって色合いが表わされる。また、これにK(ブラック)を加えたCMYK値で表わされることもある。

【RGB→CMY変換】 RGBの範囲は0~1

赤:
緑:
青:

 シアン(C):
マゼンタ(M):
イエロー(Y):

 色と認知(2)

【色の三大仮説】 人間がどのように色を認知しているか説明したもの。ヘルツホルム説・へーリング説・フランクリン説がある。
   ・ヘルツホルム説・・・すべての錐体が興奮すると白、全く興奮しないと黒などそれぞれの興奮の度合いの混合で色を感じる
   ・へーリング説・・・白と黒、赤と緑、黄と青の三つの物質の存在を仮定
   ・フランクリン説・・・黄と青の感覚を分化していくと、長波長、短波長の両側の波長の光を起こす物質が次々とできてくる

また、色の認知については段階説というものもある。
【段階説】 網膜のレベルでは3原色、外側膝状体のレベルでは反対色の情報によって処理され、さらに視覚野に送られる。

これらの説のいずれが正しいと仮定しても、人間に認識できる色のすべては、数学的には同じようなものとして扱えるはずだ。たとえばRGBだと変数が3つになるが、この変数が何個に増えたとしても数値的に表わせることには変りはない。

【トゥルーカラー】 人間が識別できない程度まで微妙な色の違いを表現できること。24ビットカラーなど。パソコンの設定では32ビットになっている。これは最大32ビットの色が表現できるということで、人間が最高の条件の下で識別できるとされる100万色を超えるから、完全な表現だということになる。

このあと、色の情報は視神経を通じて視覚情報処理を担当する「視覚野」に入り、さらにこの情報を組み立てて総合的に判断する「連合野」へ送られる。
【視覚野】 一次視覚野とも呼ばれる。眼から視神経を通じての入力を受け、見ているものを認識するための脳内の部位。後頭葉にある。ここで処理された視覚情報は記憶に残る。
【視覚連合野】 視覚野の周辺にある。物体認知、見たものの意味づけと判断に関わる。

視覚の情報経路には、第一視覚系と第二視覚系の二つがある。このうち第一視覚系は視覚野を通じて視覚連合野にいたる経路であり、第二視覚系は視覚野を通らず、中脳を通って視覚連合野にいたる経路である。視覚野を介した場合、物を見たという意識が生じる。
   
【第一視覚系】 網膜→外側膝状体→視放射→大脳皮質→第一次視覚野→視覚連合野
【第二視覚系】 網膜→上丘背側部→視床枕→視覚連合野

 色と認知(3)

色について言及した歴史上の人物。

【ソクラテス】 色について最初に哲学的に考察した人物と見なされる。死に際に述べた言葉が有名らしい。
[特に色に詳しい人でない限り、普通は「蘇芳色」がどんな色であるか知らないと想定できるからである。しかし「その色が赤であることを私は知っている]
【ニュートン】 光のスペクトルを発見。
【ゲーテ】 『色彩論』を著す。赤紫という色はスペクトルを越えた不思議な色だとし、マジェンタと名付ける。

哲学的議論では、人間の内面にあたえられた所与を語の意味として考えていいのだろうかという文脈で、色の例が引き合いに出されることがある。

[赤といったときの、あの赤い感覚を赤といいたくなるが、実はそうではないのでは?]
[僕の見ている赤とあなたの見ている赤は同じか?]

色という枠組みがあって、赤以外の他の色と区別や対比ができれば、赤という言葉を使う上でも不自由しないわけだ。見えている赤そのものの内容、つまり見え方は全く別であっても赤という概念として成立しうる。極端な話をすれば、あなたが見ている赤と緑は、実際には私が見ている緑と赤なのかもしれない。つまり、内容がそっくりそのまま反転してしまえば、「赤」という語の使用に限ってみた場合なんの矛盾も生じない。

また、自分と他人がそれぞれで見ている赤の内容が異なるかもしれないと言った場合、もうひとつの可能性として、人によってどこからどこまでを赤として区切るかの差異が挙げられる。赤には非常に鮮やかな赤だけでなく、くすんだ赤、朱色がかった赤、桃色に近い赤、赤紫に近い赤などいろんな赤があるはずだが、そのどっからどこまでを赤と認めるかは、人によって微妙に違う場合もある。日常レベルでみんなと話すとき、整合性は問題にならないことが多い。だが、次のような場合はどうだろう。限りなく朱色に近い赤を指して、「これは何色だと思う?」といろんな人に聞いてみれば、ひょっとして赤と答える人と朱色と答える人、あるいはオレンジと答える人もいるかもしれない。

もちろん、色の微妙な違いを数値によって表現するならば、こういった差異も問題にならないだろう。つまり、最も赤らしい赤は「#ff0000」や「R=255,G=0,B=0」という数値で表すことができる。


 色と認知(4)

【色の恒常性】 人間には二種類の色覚があり、一つは光が物体面から反射されるスペクトルそのものの色を知覚するもの、もう一つは異なった光源のもとでも同じような色の見え方をするというものである。後者は色の恒常性と呼ばれる。人間の脳のうちV4と呼ばれる視覚領域には、色の恒常性に関わるニューロンが存在し、ビデオカメラのホワイトバランスのような役割を果たしている。

【分光反射率】 各スペクトルが物体に反射される割合のこと。物体に照射された光が複数のスペクトルからなる場合には、分光反射率からその物体が標準白色光に照らされたときの色を割り出すことができる。例えば、白やグレーの物体ならば無彩色なので各スペクトルの反射率は等しい。蛍光灯に照らされたときは紫っぽく、白熱灯に照らされたときは赤っぽく見えるが、目が慣れてくるにしたがってこうした色味を感じなくなり、白いものは白く、グレーのものはグレーにみえるようになってくる。

【ホワイトバランス】 ビデオカメラやデジカメなどに備え付けられている機能で、自動または手動で色調の調節を行なう。原理としては、画面のうちのもっとも明るい部分、つまり各スペクトルの値が最も高い箇所をみつけて、そこが白になるように調節する。それに伴って、その他の部分も相対的にスペクトルが差し引かれたり付け足されたりするので、結果的に色調の補正が行なわれる。

【トンネルの中の色】 トンネルにはナトリウム灯が使われている。ナトリウム灯の低圧は全光束の60%以上が波長589~589.6mm(D線)にあり、オレンジと黄色の中間として知覚される。ナトリウム灯には単一の波長しか含まれてないことから、分光反射率による分析が不可能となる。トンネルの中では色の恒常性が働かず、すべてがオレンジがかった色合いに見えてしまうのはこのためである。

 色と認知(5)

【色彩失認】 (colour agnosia):色そのものの知覚が困難な場合、いくつかの色を同系色ごとに分類できない場合(狭義の色彩失認)、色の弁別はできても名づけが困難な場合(色名健忘)などがある。色の分類が困難な場合では名づけも不良である。色の概念的把握や記憶障害が関係していると考えられている。優位半球の後頭葉に損傷のあることが多い。純粋失読に合併して発病しやすい。

【色の概念把握】 色彩失認の症例などから推測すると、個々の色を類型化して捉えたものが色の概念だと言ってよいだろう。これは言葉の意味が、その心に映る内容(映像)ではないということの一例でもある。概念というと、すべて言語以後に発生したものとされることが多いが、知覚にもとづいて形成される言語以前の概念の存在を考えてみた方がよい。

【赤の意味】 赤の意味とは、心にうつるあの真っ赤なものを指すのではない。つまり、赤い映像や感覚を寄せ集めたものが赤なのではなく、それを集めて一般化したものが赤の意味なのだ。人間のこうした一般化の能力は、言語以前の知覚処理の段階にもとづくものかもしれない。

【言語からの概念獲得】 先天的に全盲だったが後に視力を得た人の話によると、最初に色の言語的概念があって、その分節は完全に言語的にあたえられているという。その後に、色の無意識的な分節があらわれるようになる。つまり、赤とか緑とかいう言葉は耳にしており、赤と緑が別物だということは知っている。ただ、その感覚は健常者とはかなり異なっており、赤を音で表現したりする。例えば、「赤い色ってどんな感じ?」といえば「絹を破っているような音の感じ」など。

 色と認知(6)

【色彩語彙調査】 バーリンとケイは世界の98の言語について色彩名を調べた。この結果、色彩名は言語によって異なっているが、各言語に共通するある一定の体系を成していることが判った。さらにこの研究を受けて、ケイとマックダニエルはメンバーシップ関数を用いた分析を行い、色彩カテゴリーをファジー集合理論と関連付けて説明した。言語が色彩語をもったとき、それらは決して恣意的に派生するのではなく、人間に普遍的な認知プロセスに合致するものである。

【プロトタイプ】 プロトタイプ理論の第一人者であるエリナ・ロッシュは、自らが調査したダニ族の事例をバーリンとケイの色彩研究と比較して、すべての言語の話者に共通する焦点色、つまり最も赤らしい赤や最も青らしい青に相当する典型的な色が普遍的に存在することを突き止めた。そして、色彩カテゴリーはこの焦点色をプロトタイプとして周辺的に広がっていると結論付けた。

【色の翻訳】 色の認知にたとえ焦点色が存在するとしても、実際にその焦点色を表わす語彙が存在するかは言語によって異なる。あるいはその色に類似したものをすべて同一の色名に含めるか、細分化して別々の色と見なすかによっても色彩カテゴリーは一様ではない。和名では緑系統の色名が少ないといわれるが、アメリカ・インディアンの言葉では緑を表わす色名が数多く存在するらしい。また、モンゴル語にはヤガーンという色名があるが、かなり桃色に近いピンクからショッキングピンク、赤紫まで広くカバーしており、さらに「藍のヤガーン」という言い方をすると、青紫までを表現できる。こうした色名を翻訳するとしたら、はたしてうまく一つの色名を充てることが可能なのか疑問である。

【マンセル表色系】 色を感覚の3属性である色相(H:Hue)、明度(V:Value)、彩度(C:Chroma)によって尺度化したもの。心理的な色の見え方を考慮した尺度になっている。色彩の色相・明度・彩度を、HV/Cの形で表わした数値をマンセル値という。これに具体的な色を当てはめたものをマンセル色立体という(色相、色味の程度、黒味の程度を用いるものもある)。
 色相は基本色相としてR(赤)、Y(黄)、G(緑)、B(青)、P(紫)の5つを選び、これに中間色相としてYR、GY、BG、PB、RPを加え、感覚的に等しく10分割して100色相とする。明度は無彩色を中心軸に置き、黒のV=0から白のV=10までを感覚的に等しい間隔で配置される。


【色の認知の発達】

 色と認知(7)

【ヴィトゲンシュタイン】 その色そのものを見せることはできるけど、その意味を深く説明することはできない(『色彩論』より)

【色の記号的意味】

【赤青白黒】 「赤-黒」「白-青」の対立。「あかるい-くらい」「あける-くれる」「しらない」「しらむ」「しるし」などの語源との説がある。「玄冬-青春-朱夏-白秋」

【みどりの黒髪】 (蒼き狼の例との比較)

【進化論的な解釈】 人間が赤を識別できるのは熟れた果物を見つけるため発達したという説もある。果実は「緑→黄色→赤」の順に熟れていくわけだから原始的には黄色と赤が区別されなかったとしてもおかしくない。

【構造主義的な解釈】 「赤」や「緑」という個別の色の上位概念に「色」というものがあって、赤から緑までは連続体として存在するが、恣意的に切り分けられたそれぞれの色は別の色との非両立または対比の上に成り立つ。例えば「赤」→「オレンジ」→「黄色」という連続体があって、そこから「赤」や「黄色」とは別のものとして切り分けて区別されたものが「オレンジ」という色である。また、ソシュール風に記号論的に解釈するなら、「赤」という語は/aka/という音連続によって<赤>の意味を恣意的に表している記号だともいえる。

 色と認知(8)

【表面色】 物体表面での反射色。色相・明度・彩度の三属性により知覚される。リンゴの色など。

【光源色】 光源発光色とも呼ばれる。色相・明度のほかに色味の強さが知覚の属性として挙げられる。夕日やテレビの色など。

JIS規格では色名は系統色と慣用色に分けられている。

【系統色】

【慣用色】 「○○のような色」という由来を持つもので、空色・ローズ・肌色など数多くある。

【記憶色】

【理想色】 



モンゴル語翻訳ITAKO