認知言語学自習ノート

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1 認知言語学の枠組み


 認知言語学(Cognitive Linguistics)は、1980年代以降に発展してきた新しいタイプの言語研究である。端的にいうならば、言語のあり方は認知の主体である人間が外的世界をどのように認識しているによるとする考え方である。認知言語学と呼ばれるものには、認知意味論、認知文法などがあるが、これらは広い意味での認知言語学に含まれるといって差し支えなかろう。

1.1 認知言語学の創始者

 Lakoff, Langackerなど。彼らはもともと生成意味論(1960年代後半から1970年代に出現)を研究していた。

・認知意味論(Cognitive Semantics)・・・George. Lakoff(レイコフ)らが提唱
・認知文法(Cognitive Grammar)理論・・・Ronald W. Langacker (ラネカー)らによって提唱された文法理論

1.2 認知言語学の成立背景

 生成意味論を基盤としている。ただし、生成意味論での「派生、変形操作、表層レベルと深層レベルの区分、形式的な組成規定」などの理論的概念は根本的に否定されている。

1.3 生成意味論から継承された考え方

 言葉の意味の根源は言語主体の認知能力と運動能力だとする。言語現象の全体は、認知的、運用的な動機付けに裏うちされている。

1.4 認知言語学の考え方

 言語の構造や形式は自律的なものではなく、人間の一般的な認知方法によって動機付けられている。したがって、言語研究は認知能力のあり方との関連で行なわれるべきとされる。人間の認知能力は、自然界のなかで進化してきた生物一般の認知システムの制約から単純に切り離して考えることは不可能であると考える。

1.5 他の言語研究との比較

記号・表示主義・・・言語だけに注目して言語の体系・構造を明らかにすることを目指す
生成文法理論・・・人間の言語能力を自立したものとして考え、人間が持っている他の能力とは切り離して研究する


2 認知言語学と意味論


 意味論(Semantics)とは、意味の分析を中心とする言語研究である。この「意味」の解釈をめぐって、意味論は大きく枝分かれした。すなわち、言葉の意味が客観的事実として外界に存在するか、言葉を話す人の主観によって創りだされていくものか、という考え方の違いである。生成文法的な意味論は、意味の客観性を前提にするという点で主に形式意味論の流れを汲んでいるとみてよいだろう。最近の意味論は、統語論の自立性をめぐり、大きく生成文法的なものと認知言語学的なものに分かれるとされる。

2.1 意味論の成立背景

 意味論は、古典論理学に萌芽を見ることができる。古典論理学の時代から、言葉を手がかりにして言葉の意味を分析する試みが行なわれてきた。さらに、フレーゲやラッセルを創始者とする述語論理学に基盤をおいて意味論が成立した。

 古典論理学→命題論理学→述語論理学
      (現代の記号論理学) ↓
                意味論

2.2 意味論の考え方

 意味論では、形態素(語)や文の意味を、記号と指示対象を対象を対応させる関数だとしている。

・意味関係分析・・・語の意味を、他の語との相対的な関係によって明らかにする
・成分分析・・・必要十分条件と2値主義を重視

2.3 意味の定義

・概念説・イメージ説・・・意味を音声が喚起する「イメージ」、「表象」と考える。
・反応説・・・ブルームフィールドが提唱。意味を記号に対して引き起こされる人間の反応であると考える。
・用法説・・・意味を記号の「用法」であると考える。ヴィトゲンシュタインは、語の意味はその言語における用法であるとした。

2.4 認知意味論と形式意味論

 意味関係分析、成分分析などによる形式意味論では、語の意味を話者を離れたところで客観的に捉えようとしている。一方で、認知意味論はこの形式意味論のアンチテーゼとして、2値論理と客観主義を見直そうとする立場をとっている。人間の主観から離れたところに客観的な真理があるとする考え方を否定し、世界のあり方は時と場合により人により異なるとするのが認知意味論の考え方である。

2.5 意味づけ論


 意味そのものよりは、主体内・主体間で意味が形成されるプロセスを主に扱う。認知意味論を基盤としており、従来の意味論とは一線を画した非常に新しい研究分野である。意味づけとは、主体が言葉を刺激として記憶を呼び起こし、引き合わせることによって記憶の関連装置を形成する内的プロセスをいう。話し手と聞き手が情況に応じた辻褄あわせを行なうことによって、ダイナミックに再編成するものとして、言葉の意味の不確定性を強調している。

2.5 語彙・概念的な意味論

 生成文法を基盤とした意味論。統語論の自立性を認めるという点で、認知意味論と大きく異なっている。

語彙意味論・・・語彙概念構造を基盤とする意味論
概念意味論・・・ジャッケンドフ(Jackendoff)によって始められた。広い意味での語彙意味論のひとつ。


3 認知言語学と生成文法


 生成文法と認知言語学は、同じ理論言語学という枠組みで行なわれる言語研究である。「言語を理解するとは何か」という疑問に焦点を当てたものとして、非常に問題設定のあり方が似ている。さらに、言語がヒトという動物によって話されているといった事実に着目して、生物学までを論争に巻き込んだ点もそっくりともいえよう。
 しかしながら、認知言語学は多分に生成文法に対するアンチテーゼとしての側面を持つ。実際に生成文法で唱えられた「生得説、脳内モジュール説、普遍文法の自立」などは強く否定されている。

3.1 生成文法の成立背景

 生成文法はチョムスキーによって1960年代に提唱された。それまでの文法研究に数学的な手法を導入して、精密な分析を可能としたため、自然言語処理などの分野に大きく貢献した。20世紀においては、言語学の主流ともいえる考え方になっていた。

3.2 生成文法の考え方

 ヒトの種に固有な普遍文法があると仮定。個別言語を律する普遍的な言語知識が存在する。言語習得の能力は生物的、遺伝的なものである。言語習得を可能とするような、心的器官(mental organ)のモジュールが、脳に内蔵されていると考える。

3.3 生成文法の方法論

・標準理論 → 1965年頃まで
・解釈意味論と生成意味論の抗争
・拡大標準理論と改定拡大標準理論
・統率・束縛理論(GB理論) → 1980年頃から
・ミニマリストプログラム → 1995年頃から

3.4 生成文法と認知言語学

 言語の自立性などを否定した点で、認知言語学は生成文法と全く別をいく考え方ともいえる。

<生成文法>
・普遍文法の存在を明示
・モジュール的、演繹的なアプローチ
・言語能力をヒトという種だけに特有な生得的、遺伝的なものとする
・脳内に言語運用をつかさどるモジュールが存在するとの考え方

<認知言語学>
・言語の自立性を否定
・連続的、統合的、帰納的なアプローチ
・人間の身体的、感性的な認知能力の相互作用によって言語運用が行なわれるとする
・生物一般が持つ認知システムとの関係を重視


4 認知言語学のパラダイム


 認知言語学の考え方では、理性とは主体の身体性を踏まえて成り立つ創造的なものだとし、人間の主観を重視している。これまでの伝統的なものの見方は客観主義的な科学観に基づいていたが、認知言語学では経験的実在論という立場をとる。

4.1 認知言語学までの歴史的流れ

・ヴィトゲンシュタイン・・・家族的類似性・中心性・段階性
・オースチン・・・語の意味間の関係について。多義性には意味間の家族的類似性が含まれるとする
・ザディ・・・ファジー集合理論。カテゴリーには成員性に段階を持つものがある
・ラウンズベリー・・・親族カテゴリーの生成分析
・バーリンとケイ・・・色彩カテゴリーの研究。中心性と段階性についての考え方を実験的に確立
・ケイとマクダニエル・・・人類学と神経生理学における色彩の研究をまとめる。概念における身体性の重要性を確証
・ブラウン・・・「基本レベル・カテゴリー」についての考察
・エクマン・・・感情の概念が身体化されたものであることを論証
・ロッシュ・・・認知心理学的研究のパラダイムを確立。プロトタイプ理論

4.2 認知モデルの基礎となった考え方

・家族的類似性
・中心性
・プロトタイプ現象としての生成性
・段階性
・身体化
・基本レベルのカテゴリー化
・標準点あるいはメトノミーによる推論

 言語哲学、認識人類学、生理学、心理学などといった諸分野の研究者たちによって、以上のような考え方が打ち出されてきた。レイコフは、これらのテーマを一つに結び付けて、認知モデルというパラダイムを提唱している。

4.3 古典的なカテゴリーの概念の見直し

 プロトタイプ理論の出現は、人間のカテゴリー化という営みについての古典的見解に大きな衝撃を与えた。これは広く人間の「カテゴリー化の能力」についての問題として捉えることもできる。

4.4 客観主義的な科学観の見直し

 これまで理性とは、形式的な演繹的論理モデルにほぼ一致するものと捉えられていた。しかし、プロトタイプ理論の出現以降、理性は知覚、身体、文化に裏打ちされたものであるということが次第に明らかになってきた。つまりは、西洋近代科学の根本にある客観主義的な科学観の見直しだけでなく、我々の精神や理性についての捉え方をも変えようとする大きなパラダイムの転換であるといってもよい。


5 認知言語学の方法論


5.1 認知言語学の中で生まれた方法論


・フレーム意味論・・・フィルモアが提唱
・メタファーとメトノミーの理論・・・レイコフとジョンソンが提唱
・認知文法・・・ラネカーが提唱
・メンタルスペース理論・・・フォコニエが提唱

5.2 諸関連諸分野

・心理学的アプローチ・・・心理言語学、認知心理学、発達心理学など
・生物学的アプローチ・・・脳科学、神経言語学、生物学、生態学など
・情報工学的アプローチ・・・人工知能、自然言語処理、計算言語学、数理言語学、機械翻訳など
・人類学的アプローチ・・・認識人類学、言語人類学など
・哲学的アプローチ・・・言語哲学など

5.3 関連分野から適用された方法論

<心理学からの知見>
・プロトタイプ理論
・スキーマ理論
・ゲシュタルト理論
・アフォーダンス理論

<情報工学からの知見>
・コネクショニズム

5.3 言語以前に人間が普遍的に持つとされる認知能力

・比較参照能力
・カテゴリー化能力
・比喩能力
・推論能力


6 認知言語学の動向


6.1 これまでの研究

・語彙の意味研究(成分分析、放射状カテゴリーなど)
・比喩表現の研究(メタファー、メトニミー、シネクドキシーなど)
・構文研究(There構文、他動性、繰上げ構文など)
・前置詞や動詞の空間認知的解釈

6.2 最近注目されている研究

・空間に関する研究(参照点と目標、視点、主体など)
・空間表現の時間表現への比喩

6.3 今後の展望

 従来では、時間表現はもっぱら統語論的枠組みにおいて研究されることが多かったが、今後は認知言語学的な解釈が盛んになり、諸言語間で異なる時間表現について簡明な説明が可能となってくるであろう。また、方向を表す語の文法化といった現象が、人間の認知能力との関わりで解明されるのではなかろうか。
 さらに、従来では語用論の分野でのみ行なわれてきた談話分析などの研究が、もっと多角的な方法で試みられることが予測される。
 認知言語学は非常に広い分野を対象とする学際的な言語研究であるが、現在までのところ、十分に諸学問の間で連帯が図られているとはいいがたい。今後、さらに活発な情報交換を行なって、より広い視野での多角的な研究が行うべきである。今後は、異分野の研究者同士でも、共同研究などが活発に行なわれることを期待したい。


7 認知言語学と心理学


 心理学の中でも、認知言語学と関連の深い分野として、認知心理学、発達心理学などが挙げられる。また、生態心理学によってもたらされたアフォーダンス理論も、概念というものを理解する上で大きな影響を及ぼした。

7.1 認知心理学

 認知心理学にも言語研究という分野がある。言語は、「マクロ⇔ミクロ」という階層構造を持ったものとみなされ、言語の理解にはボトムアップ処理(データ駆動型処理)とトップダウン処理(概念駆動型処理)という二つの方向の処理が必要だとされる。

<言語理解の階層構造>
・文字と単語の認知
・文の理解
・連接文の理解
・比喩の理解
・文章の理解
・会話の理解

(1) プロトタイプ理論
 ロッシュ(Rosch)によって唱えられた理論。カテゴリーは必要十分条件によって決められるのではなく、典型的なもの(プロトタイプ)を中心に、それとの類似性によって周辺に拡張していき、それにともなって典型度が段階的に落ちていくとする考え方。

(2) スキーマ理論
 チェンとホリウォークら(Cheng and Holyoak)によって唱えられた理論。一般にスキーマとは構造化された知識の集まりのことをいうが、この理論においては、ある程度抽象化された規則を指す。

(3) ゲシュタルト理論
 ゲシュタルト心理学派によって唱えられた理論。「全体は部分の総和以上のものである」とする考え方。

①全体的構造のほうが、部分的構成的構造よりも知覚されやすい
②部分は全体を踏まえて概念化されている。

7.2 発達心理学

 発達心理学の分野でも、概念形成と発達などといった言語を扱う分野がある。

・想像力の発達
・ディスコースの成立
・語意学習(即時マッピング、語意学習原理)
・基礎レベルのカテゴリー
・属性のラベルへの帰納的投影

7.3 生態心理学

 生態心理学とは、人の知覚―行為という「システム」の性質を解明する学問である。人も地球上で生きている動物であり、動物は全て地球上ではたらいている物理法則(例えば重力や慣性力)を受けていることを大前提にする。そして、「知覚すること」と「行為すること」とを「情報」という鎖によって繋がれたひとつの「システム」と見なしている。

(4) アフォーダンス理論
 ギブソン(Gibson)によって唱えられた理論。意味は身のまわりの環境のなかにすでに存在しているとする考え方。アフォーダンス(affordance)とは、この環境にある意味を持った情報のことを指す。私たちが関わる環境が多様に変化するものであると同時に、そこに関わる私たち自身も自ら動いており、しかも動きは互いに連携しながら起きている。


8 認知言語学と生物学


 ここでは、脳科学、神経科学、生物学、生態学、霊長類学などの認知言語学と関連する諸分野を、便宜上広い意味での生物学としてまとめた。一部、心理学と研究テーマが重なるものがあるが、基本的に心の働きと言語というものを主にハード面から探求する分野と考えてよいだろう。

8.1 実験音声学的な研究

 人体の発声の仕組み、音声の知覚、音声認識などについて主に扱う。工学的な知識も取り入れた音声認識装置、音声合成装置などの開発にも力が入れられている。

8.2 脳の仕組みの解明

 従来では言語研究といえば音声面での研究が主流だったが、しだいに脳科学的なアプローチが盛んになってきた。近年、MRIなどの測定機器の開発によって、脳科学は飛躍的な発展を遂げている。それに伴って人間の言語使用の仕組みについても様々なことが明らかになってきたが、同時にまだ解明されていない点も多い。

8.3 失語症の研究

 主に脳機能に障害を持つ患者の例などから、脳のどの部分がどういった仕組みで言語の認識に関わっているかという点が明らかになってきた。ブローカ失語、ウェルニッケ失語などの例が有名である。

8.4 手話の研究

 手話も一つの言語とみなすことができる。手話における概念のあり方を研究することで、様々な知見をもたらされることが期待される。

8.5 霊長類研究

 言語は人間だけに固有のものか、あるいは生物の進化の過程でより高次の認知機能を持つにいたった結果、情報伝達などの目的で獲得されていったものか。霊長類研究の分野でも、サルの脳神経を実験的に研究したり、言語学習をさせて概念形成の仕組みを探るなどの試みが行なわれている。


9 認知言語学と情報工学


 情報工学の分野では、人間の脳の仕組みや認知能力を模した、より高次な情報処理システムの構築が試みられている。近年では、PDPモデルの出現によって、より人間の認知システムに近い柔軟な概念形成モデルの開発が期待されている。

9.1 人工知能開発

 人間の認知や思考などの機能をコンピュータ上のモデルを通じて研究するもの。人工知能の研究では、どんなに複雑であったり直感的と見える活動でも、数学的理論を基礎とする情報処理モデルとして捉えられるという考え方をする。
 最近では、概念というデータをあらかじめすべて入力しておくのではなく、概念構築の枠組みだけを与えて、自ら概念を獲得できるようなプログラムの開発が提案されている。

9.2 コンピュータ言語学

 コンピュータ言語学は、認知科学および人工知能研究における要の位置を占める。主要な研究分野としては、コンピュータ上での言語の解析・生成、音声認識・合成がある。
 
9.3 自然言語処理

 プログラミング言語などの人工言語では、言語を設定する段階で、関係のある情報の範囲を限定することができる。これに対し、自然言語は世界全般について語るためのものであり、その世界の範囲をあらかじめ限定することはできない。したがって、自然言語の場合には、情報の部分性による文脈依存性という問題が生じる。これはコンピュータによる自然言語処理を含む、人工知能や認知科学一般における普遍的なテーマである。

9.4 形式統語論的な研究

 句構造文法による分析を行なうもの。近年では、変形を加えた場合に認識できなくなる文があることが明らかになった。このため、人間の言語能力や活動のモデル化という立場をとるコンピュータ言語学と、チョムスキーの立場との間に溝が広がっていっている。

9.5 形式意味論的な研究

 論理学を基礎としたモンタギュー文法の流れを汲むもの。語彙で定義された規則的な意味を重視するという構成性原理の立場をとる。個々の語彙の組み合わせに独特な意味合成などが考慮されないという点が認知言語学から批判を浴びている。
・HPSG・・・語彙論的な、制約にもとづく生成文法の一種
・談話表示理論(DRT)・・・談話表示構造(DRS)と呼ばれる意味表示の中間的レベルを設定する

9.6 コンピュータ言語学の応用的分野

・音声認識・・・音響学的な研究データに基づいた、音声認識装置などの開発
・機械翻訳・・・自動翻訳ソフトなどの開発
・言語データ処理・・コーパスをもとにした、統計的な分析など。同じ単語の頻出度合いから、類似概念を持つ文章を抽出するアルゴリズムが脚光を浴びているという。

9.5 コネクショニズム(PDPモデル)

 コネクショニズムとは、神経系の結びつき(connection)に注目した、新しい情報処理のモデルをいう。神経細胞を模して作った仮想的な神経ユニットをもとにしており、これらの結びつきが変化することで情報処理がなされる。
 具体的には、他のユニットからの入力信号の総和が一定値を超えたかどうかに応じて、ユニットから出力信号を発するかが決められる。ユニットの組み合わせによって、各ユニット間の結合強度(興奮の度合い)を調節することが可能となる。
 従来までの1か0かという2値的な情報処理ではなく、情報伝達に段階的な度合いの差をつけることができるため、より人間の認知機能に即した柔軟な情報処理が期待される。また、様々な情報処理を同時に行なえるという点でも注目されている。


10 認知言語学と人類学


 人類学(Anthropology)とは、人間を総合的に研究する学問である。このうち、文化的側面から研究するものは文化人類学、生物学的側面から研究するものは自然人類学と呼ばれる。アメリカでは、人類学の主要な4分野として、自然人類学、考古学、文化人類学、言語人類学という区分をしている。

10.1 言語人類学

 言語と文化の深い関係を探っていく研究分野である。言語人類学では、主に言語がフィルターとなって外界を取り巻いているとする、言語相対論の立場をとっているようである。扱う分野は、文化人類学に非常に近いものから、社会言語学に近いものまでと様々である。

・文化人類学・・・人類の文化のあり方を、フィールドワークの手法をもとに記述分析する
・言語類型論・・・諸言語のあり方をカテゴリー化して比較する
・社会言語学・・・伝達の機能、コミニュケーション手段として言語を研究する

 長年の研究からフィールドワークによって集められた比較文化データは、認知的制御(しめつけ)が文化や社会にどう働いているかといった考察を深め、認知科学の分野に大きく貢献している。

10.2 認知人類学

 1970年代から始まった研究分野で、古くは認識人類学と呼ばれていた。人工知能、言語発達などの約20にわたる研究分野がある。ラウンズベリーによるアメリカ・インディアンの親族体系の研究、バーリンとケイによる色彩研究は、プロトタイプ理論の発展に大きく影響を与えてきた。
 正確には、人間の知的活動は「知覚→認知→認識」という過程を経るとみなされる。このうち主に、「認識」の部分を研究対象としていたことから認識人類学と称されていたが、近年の学際化の動きを受けて認知人類学へと改名されたらしい。

10.3 自然人類学

 ヒトの起源と進化についての研究分野として、形質研究、霊長類研究などがある。また、ヒトの構造と機能についての研究分野としては、解剖学的な研究などがある。



☆ 参考文献

<現在までに使用したもの(順不同)>

『認知言語学の基礎』河上誓作編著, 研究社出版,1996年
『認知言語学入門』F.ウンゲラー/H.-J.シュミット著,池上嘉彦ほか訳大修館書店,1998年
『認知言語学原理』山梨正明著くろしお出版,2000年
『認知意味論』ジョージ・レイコフ著,池上嘉彦・河上誓作他訳, 紀伊国屋書店,1993年
『認知意味論の方法――経験と動機の言語学』吉村公宏著, 人文書院,1995年
『認知言語学の発展』坂原茂編, ひつじ書房,2000年
『認知意味論の仕組み』町田健・籾山洋介著, 研究社, 2002年
『ルイス・キャロルの意味論』宗宮喜代子著, 大修館書店, 2001年
『おもしろ言語のラボラトリー』森敏昭偏著, 北之路書房, 2001年
『コトバの<意味づけ論>』深谷昌弘・田中茂範著, 紀伊国屋書店, 1996年
『言語学』風間喜代三・上野善造・松村一登・町田健著, 東京大学出版会, 1995年
『認知心理学3 言語』大津由紀雄偏, 東京大学出版会, 1995年
『言語処理と機械翻訳』野村造郷偏, 講談社サイエンティフィク, 1991年
『もし「右」や「左」がなかったら』井上京子著, 大修館書店, 1998年

<今後使用予定のもの(現在勉強中)>
『メンタルスペース理論』ジル・フォコニエ著, 白水社, 1996年





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