1. 品詞という枠組み 品詞とは「単語をその性質によって分類してラベルを付けたもの」である。文法現象を説明するために必要に応じてことばを区別し、それぞれに名称を与えたものである。 2. 格文法 格とは、文を構成する語と語の間に成り立つ関係の中で、述語に対して他の語が果たしている役割のことである。格には表層格と深層格がある。 ・ 表層格・・・表層的な手掛かりから決まる構文的な役割。孤立語は語順、屈折語は語形変化、膠着語はsuffixによって格が表示される。 ・ 深層格・・・述語に対して他の語が果たす意味的な役割。 格文法とは、Fillmoreによって提唱されたもので、文を構成する単語の間に成立する意味的な関係についての文法理論を指す。 3. モンタギュー文法 Montagueによって提唱された、意味を明示的に記述するための文法理論。今日の形式意味論の基礎となっており、自然言語処理などの人工知能開発の分野にも大きな影響を与えた。 モンタギュー文法の統語規則はカテゴリー文法で与えられる。つまり、それぞれの語はeを個体、tを真理値とした統語カテゴリーによって表わされる。 ・統語カテゴリーと品詞の対応 t/e IV 自動詞(句) t/(t/e) T 固有名詞 (t/e)/(t/(t/e)) TV 他動詞(句) (t/e)/(t/e) IAV/T 述語副詞 t//e CN 普通名詞 t/t 文副詞 ((t/e)(t/e))/(t/(t/e)) IAV/T 前置詞 (t/e)/t IV/t 補文をとる動詞 (t/e)//(t/e) IV//IV 不定詞補語をとる動詞 4. 概念依存理論 文の意味表現として自然言語に依存しない概念依存構造(conceptual dependency structure)とよばれる概念レベルの表現を用いる。概念依存構造は、意味素を表すノードと、ノードの間の意味関係を表わすリンクとで構成される。ノードは以下の概念カテゴリーに分類される。 ACT(動作や行為) PP(名詞で表わされる概念) AA(動作や行為を修飾するもの) PA(名詞で表わされる概念を修飾するもの) T(時間) LOC(場所) さらにACTは以下のように分類される。 PTRANS オブジェクトを物理的に移動する ATRANS 抽象的なオブジェクトを移動する PROPEL オブジェクトに物理的な力を加える MOVE 身体の一部を動かす INGEST 動物がオブジェクトを体内に取り込む EXPEL 動物が体内のオブジェクトを体外に出す GRASP オブジェクトを物理的につかむ SPEAK 音を生成する ATTEND 刺激に対して感覚器の注意を集中する MTRANS 情報の伝達を行なう MBUILD 思考によって新しい情報を伝達する 6. 意味ネットワーク 意味ネットワーク(Semantic Network)は人間の連想記憶(associative memory)の心理学的モデルとして、Quillianによって提案された(1968)。一般的に、連想とはある概念や対象(object;O)に関して、それらが持つ性質・属性(attribute;A)の内容・値(value;V)を通して、他の概念や対象が想定されることである。これらの関係は次のような三つ組として表わすことができる。 <概念、属性、値> 記号的には、<O、A、V> さらに、概念や対象が持つ多くの属性関係を組み合わせることによって、複雑な意味関係を表わすことができる。これらの属性関係は以下のように大きく2種類に分類することができる。 ・2種類の属性関係 (a)階層構造(hierarchy) ①上位-下位関係・・・上位属性の下位への継続性(inheritance)あり ②全体-部分関係・・・全体属性の部分への継承性なし (b)構造的性質(structural property) ①定義属性・・・その概念にとって必要不可欠な性質。デフォールト(暗黙)値の指定ができる。 ②性質属性・・・たまたま持っている性質。必要に応じて定義することができる。 7. フレーム意味論 Fillmoreによって提唱された、フレームという概念を軸にして提案された意味論。フレームとは、ある概念を理解するのに前提となるような知識構造のことである。言葉によって表わされるカテゴリーは、言語共同体の経験や世界観を背景としている。フィルモアは格文法において動詞がとる意味役割を格フレームと呼び、[_動作主, 被動作主, 道具]のように表わした。この格フレームは抽象的な場面を表わし、動詞の意味を理解するには、こうした抽象的な場面を理解することが必要であるとされる。もし、この「動作主・被動作主・道具」などをそれぞれ「行為を表わす動詞」に当たる語に付帯して連想される属性関係とみなすならば、概念の格フレームが意味ネットワークでのリンクするべき概念を決定する読み替えることも可能であろう。 ただしsainについては、フレーム意味論の方法でどのような記述が可能なのか、残念ながらまだ考察が不十分なので今後の課題としたい。 8. イメージ・スキーマ 様々な身体経験をもとに形成されたイメージを、より高次に抽象化・構造化して、拡張を動機付ける規範となるような知識形態をいう。イメージとは身体経験に基づいて形作られるもので、スキーマとは経験を抽象化・構造化して得られる知識の集成である。 イメージ・スキーマにどんなものが含まれるのか、まだ確定的な説はないが、現段階で提唱されているのは「前・後のスキーマ」「遠・近のスキーマ」「容器のスキーマ」「部分・全体のスキーマ」「起点・経路・着点のスキーマ」などである。 9. 認知格 伝統的な意味での深層格に対する概念で、文脈や視点を加えた認知レベルで、複合的かつ相対的に規定される意味役割を言う。伝統的な格文法における深層格が真理条件的な意味関係によって客観的かつ一義的に規定されるのに対し、認知格は概念主体の認知過程をダイナミックに反映するので、たとえ真理条件が同じであっても解釈によって認知格は変りえる。また、複数の連続した認知格がオーバーラップしているなどによる解釈のゆらぎが認められるのも特徴である。 格文法による記述では、sainは真理条件的な意味関係というレベルではいくつかの異なった振る舞いをするとみなされる。これは、表層格のレベルでも深層格のレベルでもそれぞれ異なる。ただし、認知レベルで考えた場合には<良し悪し><善悪><程度><自発性>などの属性について、一様にプラスの値をとるという点で同じ認知格に属するものとみなすことが可能だろう。 10. 参考文献 前田隆・青木文夫. 1999.『新しい人工知能 基本編』オーム社 辻幸夫編.2002.『認知言語学のキーワード辞典』研究社 吉村賢治.2000.『自然言語処理の基礎』サイエンス社 D.Tumurtogoo.1979.『現代蒙英日辞典』開明書院 白井賢一郎.1984.『自然言語』産業図書 Partee.1976.”Montague Grammar”Academic Press |