🎯 概要
13世紀末から14世紀初頭にかけてクリミア半島で編纂されたラテン語・クマン語(キプチャク系テュルク語)・ペルシャ語の多言語語彙集・会話集である。テュルク語がラテン文字で転写された現存最古の文献であり、中世ヨーロッパとモンゴル帝国圏の文化接触を証す第一級の歴史資料でもある。全164葉がヴェネツィアのマルチアーナ国立図書館に所蔵されている。
📖 詳細
二部構成
前半(Part I、1303年頃)はイタリア人商人・宣教師による分類語彙集で、ラテン語・クマン語・ペルシャ語の三言語対訳を実務的に収録する。後半(Part II、1330年代)はドイツ人宣教師による文法解説・会話集・宗教文書であり、おそらく世界初のテュルク語文法記述を含む。主の祈りやクレドのクマン語訳は、クマン語による最古のキリスト教文献である。
言語学的意義
ラテン文字転写により、14世紀キプチャク語の母音・子音体系が詳細に復元できる。モンゴル語からの借用語(*noyan*「貴族」、*yarlïɣ*「勅令」、*yam*「駅伝」)はモンゴル支配下の言語接触の直接的証拠であり、現代のカザフ語、タタール語、クリミア・タタール語など、キプチャク系テュルク諸語の共通祖語を再構築する最古の文献証拠である。
現代での位置づけ
2015年にマルチアーナ図書館がデジタル画像を公開し、国際共同研究が加速している。クリミア・タタール人にとっては言語復興運動の象徴的文化遺産でもある。