モンゴル語では、家畜だけでなく野生動物についても、年齢や性別によって名称が細かく分かれているものが多い。こうした語彙の豊富さを見ると、かつては野生動物が現在より身近で、狩猟もかなり盛んだったのではないかと思えてくる。
しかし、不思議なのはモンゴルの生活圏には存在しない動物についてまで、独自の名称が存在することである。
たとえばカンガルーには имж という語がある。これは単なる外来語の音訳ではなく、少なくとも語形の上では、モンゴル語の中に独自の動物名として存在している。
さらに興味深いことに、сэмжин という「カンガルーの仔」を意味する語まである。
モンゴル人の伝統的な生活環境とは直接の接点がないはずの動物に、成獣だけでなく仔を指す語まで用意されていることになる。家畜や在来の野生動物であれば、年齢や性別による細かな呼び分けが発達するのも理解しやすい。しかし、カンガルーについてまで同じような語彙体系が見られるとなると、その由来は簡単には説明できない。
имж と сэмжин が、いつ、どのような経路でモンゴル語に入ったのか。古い辞書や翻訳文献を遡っていけば、意外な語彙史が見えてくるかもしれない。