英語で saiga とだけ言った場合、通常はロシアサイガ(学名:Saiga tatarica tatarica)を指し、モンゴルに生息するものは Mongolian saiga と呼び分けられる。
一方、モンゴル語で бөхөн と言った場合、通常はモンゴルに生息するモンゴルサイガ(学名:Saiga tatarica mongolica)を指し、ロシアサイガについて特に言及する場合には соргог бөхөн と呼び分ける。
つまり、英語圏での「普通、サイガって言ったらこれでしょ」とモンゴル語圏での「普通はこっちでしょ」が逆になってるということだ。
生物学上は同じ Saiga tatarica の亜種どうしなのに、どちらを無標で呼ぶかは言語によって異なる。英語ではロシアサイガの方が「ただの saiga」で、モンゴルサイガには Mongolian という限定が付く。ところがモンゴル語では逆に、モンゴルサイガの方が「ただの бөхөн」で、ロシアサイガの方に соргог という限定が付く。
おそらく、英語圏から見ればロシアの方が地理的にも近く、古くから文化的な接触が多かったことも、その背景にあるのだろう。一方、モンゴル語話者にとって身近なのは当然ながらモンゴルに生息する方である。
分類学上の位置づけは同じでも、語彙の中で何を「普通」とするかは、話者の生活圏によって変わる。生物学的な分類と語彙的な分類が必ずしも一致しないこと、そして有標・無標の関係が生活圏によって入れ替わることを示していて面白い。