🎯 概要
1308年(至大元年)に元朝で編纂された韻書であり、約3,500の漢字をパスパ文字で音写し声調と韻目で分類した。フビライ・ハーンがチベット僧パスパに命じて創制させた「国字」を中国語表記に応用した実験的著作であり、14世紀初頭の北方漢語(現代北京語の直接の祖形)の音韻体系を復元する最も詳細な資料である。
📖 詳細
パスパ文字と音韻記録
パスパ文字は高い表音性を持ち、母音・子音・声調を明示的に区別できるため、従来の漢字反切法では不可能だった直接的な発音表記を実現した。16摂41韻の体系は南宋の韻書を継承しつつ北方漢語の変化(入声の消失、韻尾の合流)を反映する。声調は字母への点付加で表記され、平声・上声・去声・入声が区別される。
学術的価値
元代北方漢語の声母(語頭子音)では、中古漢語の全濁音がまだ有声音として記録されており、無声化の過程を追跡できる。1324年の『中原音韻』との比較から、14世紀前半における中国語音韻の急速な変化が明らかになる。服部四郎・照那斯図らの研究により元代漢語音韻論が確立され、2008年のUnicodeへのパスパ文字収録でデジタル研究も可能となった。
現代での位置づけ
多言語帝国における文字政策の理想と現実を示す歴史的証拠であり、表音文字と漢字の関係を考える先駆的事例として、中国語ローマ字化運動(ピンイン)にも参照された。