🎯 概要

12世紀の大学者ザマフシャリー(1075-1144)がアラビア語学習のために著したアラビア語・ペルシャ語辞書を原典とし、14-15世紀にホラズム地方でチャガタイ語(テュルク語)とモンゴル語の行間注釈が付加されて四言語辞典に発展した文献である。アラビア文字によるモンゴル語の精密な音写は、漢字音写の『華夷訳語』では捉えきれない母音の長短やk/qの区別を明示し、イスラーム圏における中期モンゴル語「ホラズム・モンゴル語」を知るための第一級資料として位置づけられている。

📖 詳細

構成と言語的特徴

アラビア語原文の下に行間でペルシャ語・チャガタイ語・モンゴル語が対訳される四行構造をとる。語彙は文法カテゴリー(名詞・動詞・助詞・語形変化)と意味分野(人体・親族・動物・自然)で体系的に分類される。モンゴル語部分の語順はしばしばVOS(動詞-目的語-主語)となるが、これはモンゴル語本来のSOV語順ではなく、アラビア語原文の逐語訳の結果である。

研究史

1926年にウズベクの知識人フィトラトがブハラで写本を発見し、ニコライ・ポッペの記念碑的研究(1938年)で中期モンゴル語三大文献の一つとして確立された。近年のタシケント新写本発見や、斎藤純男らによる語末母音表記の分析が、中期モンゴル語音韻論に新たな知見をもたらしている。

現代での位置づけ

元朝大都の「官話」とは異なるイスラーム圏モンゴル語変種の記録として、モンゴル語方言史・接触言語学研究に不可欠な文献である。