🎯 概要
ゲルハルト・ドールフェル(Gerhard Doerfer, 1920–2003)による『新ペルシア語中のトルコ・モンゴル語要素』(Türkische und mongolische Elemente im Neupersischen)は、中央ユーラシア言語学および歴史言語学における金字塔的研究書である。
1963年から1975年にかけて全4巻で刊行され、ペルシア語の歴史文献に現れるモンゴル語・チュルク語由来の借用語を網羅的に調査した語源辞典・研究書として、今日もアルタイ諸語研究の基礎文献に位置づけられている。
📖 詳細
構成
- 第1巻:モンゴル語要素(Mongolische Elemente im Neupersischen, 1963): ペルシア語文献に含まれるモンゴル語由来の語彙を分析。イル・ハン国期を中心とする史料から語形・語義・用例を精査し、音韻変化の経路を記述する。
- 第2〜4巻:チュルク語要素(Türkische Elemente im Neupersischen, 1965–1975): チュルク諸語からの借用語をアルファベット順に収録し、語源・伝播経路・文献用例を詳述する。
学術的意義
- 歴史資料の解読ツール: イル・ハン朝・ティムール朝など、モンゴル系・チュルク系王朝下で書かれたペルシア語史料を言語学的に読み解くための不可欠な参照文献。『集史』(Jāmiʿ al-Tawārīkh)をはじめとする中世史料に散在するモンゴル語語彙は、本書によって体系的に整理されている。
- アルタイ諸語比較研究の基盤: 単なる単語リストにとどまらず、語の伝播経路・音韻変化・形態的変容を精緻に記述しており、チュルク・モンゴル比較言語学の方法論的基礎を提供している。
- アルタイ語族説への批判的立場: ドールフェルはチュルク・モンゴル・満州語などの系統的同一性を主張する「アルタイ語族説」に対して批判的な立場を一貫して取り、言語接触(借用)による共通性の解明を優先する立場から本書を著した。この点で本書は単なる語彙集を超え、比較言語学の方法論をめぐる論争においても重要な位置を占める。
書誌情報
Doerfer, Gerhard. Türkische und mongolische Elemente im Neupersischen. 4 vols. Wiesbaden: Franz Steiner Verlag, 1963–1975.(Akademie der Wissenschaften und der Literatur, Veröffentlichungen der Orientalischen Kommission, Bd. 16, 19–21)