🎯 概要

イサーク・ヤーコフ・シュミット(Isaac Jacob Schmidt, 1779–1847)は、オランダ出身の東洋学者であり、近代モンゴル学およびチベット学の創始者と見なされる。

モラヴィア教会の宣教師としてロシア南部のカルムイク人社会に接したことを契機にモンゴル諸語の研究を深め、西洋初の本格的なモンゴル語文法書・辞書を刊行した。

コワレフスキー(Kowalewski)やカストレン(Castrén)ら次世代のモンゴル学者に決定的な影響を与え、モンゴル学が独立した学問分野として確立される礎を築いた。

📖 詳細

生涯と背景

  • 宣教師としての出発点: モラヴィア教会の宣教師としてロシア南部サレプタ(現ヴォルゴグラード近郊)に派遣され、カルムイク人(モンゴル系民族)と長期にわたって接触した。これがモンゴル語・カルムイク語習得の直接的な契機となった。
  • ロシア帝国学士院: 1833年にロシア帝国学士院の正会員に選出され、サンクトペテルブルクを拠点にアジア諸言語の研究と出版を推進した。

主な業績

  • 西洋初のモンゴル語文法書・辞書(1831年): 文語モンゴル語(古典モンゴル語)を対象とした文法書および辞書を出版。西洋における最初の本格的なモンゴル語学術記述として、後続の辞書編纂(コワレフスキー辞典など)の直接的な先行業績となった。
  • 『蒙古源流』ドイツ語訳(1829年): 17世紀のモンゴル年代記『蒙古源流(Erdeni-yin tobči)』をドイツ語に翻訳し、モンゴル帝国史を西洋学界に広く紹介した。
  • チベット学の確立: チベット語文法書(1839年)および辞書(1841年)も編纂し、ヨーロッパにおけるチベット研究の基礎を同時に構築した。
  • 仏教文献の翻訳: 仏教説話集『賢愚経』(Der Weise und der Thor)を1843年に翻訳出版するなど、言語記述にとどまらず宗教・思想の紹介にも貢献した。
  • 聖書翻訳: 宣教師としての使命からマタイ福音書などをカルムイク語・モンゴル語に翻訳した。

学術的位置づけ

シュミットの文語モンゴル語研究は、現生モンゴル諸語(ブリヤート語など)のフィールドワークを行ったカストレンの研究と相補的な関係にある。両者はそれぞれ文語・口語という異なるアプローチからモンゴル語研究の体系化を進め、19世紀モンゴル学の二大潮流を形成した。