🎯 概要
1382年(洪武15年)に明朝の翰林院で編纂されたモンゴル語・中国語対訳語彙集。元朝崩壊からわずか14年後、北方のモンゴル勢力との外交・情報収集のために編纂された。
モンゴル人学者・火源潔らが約3,800語と約160例の外交文書用例を収録し、『モンゴル秘史』『蒙古字韻』と並ぶ中世モンゴル語研究の三大基本文献の一つとして位置づけられている。
📖 詳細
構成と内容
二部構成をとる。第一部「雑字」は天文・地理・人倫・官職・器物・動植物など約40分野に分類された語彙集であり、漢字によるモンゴル語音写と中国語訳からなる。第二部「来文」は外交文書・書簡・会話表現を約160例収録し、音写・逐語訳・全体訳の三層構造で記述される。この三層構造により、モンゴル語の語順や格助詞の用法が明示的に学習できる設計となっていた。
言語学的価値
漢字による音写は、14世紀後半のモンゴル語発音を復元する手がかりとなる。例えば *adaq*(足)は「阿答黒」と記録され、現代モンゴル語で消失した語末 *-q* 音の存在が確認できる。石田幹之助による甲種本(モンゴル語対訳)・乙種本(各種言語版)・丙種本(簡略版)の三分類は現在も研究の基礎であり、現存最古の1407年永楽刊本はベルリン国立図書館に所蔵されている。
現代での位置づけ
東北大学による全単語索引データベースの公開により、デジタル時代の研究基盤が整備された。ユーラシア規模の多言語辞書編纂運動における東アジアの代表例として、前近代の言語政策と多民族統治の実態を示す第一級の文化遺産である。