さほど資源に恵まれていない日本という国が、生き残るためにとってきた道は加工貿易であった。これは日本人ならば誰でも認識していることで、今さら私などが言うまでもないことだ。つまり、海外から豊富な資源を輸入し、日本国内で製品に加工し、再び海外に輸出する。
しかし、この加工貿易が成功を収めるためには、海外からの安定した原料の供給、製造加工のための低いコスト、十分な人口と購買力を有する市場といった3つの要素が不可欠だ。日本の産業は、これらの微妙なバランスの上に成り立っているといってもよい。
近代の日本は奇跡とも言われるほどの成長を遂げてきたが、必ずしもその道は平坦なものではなかった。石油ショック、人件費の高騰、プラザ合意後の急激な円高、バブルの崩壊・・・。国内での社会の変化だけでなく、目の前に次々とたち現れる国際情勢の変化に応じて、日本は臨機応変に産業形態をシフトさせながら、その命運を保ってきた。
特に人件費の高騰の問題は深刻だった。加工にコストがかかりすぎるようでは、他国で生産された製品との競争に太刀打ちできない。そのため、特に労働集約型産業の分野で、日本の企業は徐々に東南アジアや中国に生産拠点を移していった。
ところが、いくら人件費を抑える努力をしたとしても、昨今の世界的な大不況の影響で円高はとどまることを知らない。つまり、円が値上がりしたということは、同じ値段で販売しても諸外国にとっては日本製品の実質的な値上がりとなる。国際市場における日本の競争力の低下である。
ここまで重なった悪条件に、決定的なダメージを与えようとしているのは、最近のレアアース問題である。もちろん、レアアースが使われるのは一部のハイテク産業だけに限られるが、すでに単純な製造分野では国際競争力を失いかけている日本にとって、今さら労働集約型の産業に後戻りすることはできない。今後はどうしても、他国が追随できないようなハイテク分野を基幹産業とせざるを得ない。その原料となるべきレアアースの調達が滞ろうとしているのだ。
つまり、例えていうならば日本は、青息吐息のところへさらに首筋に鋭利な刃物を突きつけられたようなものである。もう待ったなしのところまできていると言ってよい。日本と同じく自動車や電機が主要産業であるドイツでも、その影響は深刻だ。ドイツの大手銀行のアナリストによれば、すでに半年か一年後には在庫が底を付き、価格の上昇は免れないという。
すでに日本は新たな調達先を模索しており、代替材料の開発、再生利用技術の研究も急ピッチで進められている。しかしながら、確実に予想されることは、今後のハイテク産業における原料費の高騰である。
亡国の危機を憂えると同時に、それを憂える気持ちがあまりにも少なすぎる周りの日本人の反応に、さらなる憂いを重ねざるをえない。