モンゴル語で、物事が終盤に差し掛かることを「犬の声が近づいてきている」と表現することがある。モンゴルの草原を馬で旅していると、進めども進めども全く人家に行き当たらず、まさに大海を舟で渡っているような気持ちにさせられることがある。大航海時代の船乗り達は、カモメを見て陸地が近づいていることを知ったというが、草原でゲルが近づいてくるにつれて聞こえてくる犬の鳴き声はそれに近いものがある。
長く苦しかったモンゴル語工学用語辞典の編纂作業も、ようやく終わりに近づいてきた。といっても、まだ犬の声が遠くでかすかに聞こえるに過ぎないのだが。
山登りに喩えるならば、ようやく頂上付近に差し掛かったといったところだが、頂上が近づくにつれて道のりの険しさもいや増しになってきた。まだまだ油断はできない。