牛乳から作られるどぶろくは、馬乳酒とはやや製法が異なっており、とても酸っぱくてそのままでは飲めない。その多くは蒸留酒の原料となる。逆に馬乳酒を蒸留することは稀である。馬乳酒はそのままでも十分飲用に適しているからなどの理由による。

中央アジアには馬乳酒を作る習慣を持つ民族が多数存在するが、世界広しと言えども、乳から蒸留酒を作る技術を持っているのは、おそらくモンゴル人だけではなかろうか。しかも、驚くべきことに、お酒の蒸留はチーズの製造というプロセスと表裏一体となって進められるのである。

蒸留して作られたお酒はモンゴル語でシミン・アルヒという。シムとは栄養、エッセンスなどを意味する語で、アルヒとはお酒のことである。蒸留の際に出来る酒かすのようなものはアルツといい、最終的には水気を切って乾燥させ、アーロールという名のモンゴルチーズへと加工される。

モンゴル国では、チーズといえば真っ先に頭に浮かぶがこのアーロールだが、内モンゴルではホロートという語がチーズ一般を指す名称としてよく使われる。内モンゴルにもアーロールという名称はあるが、耳にすることは稀だ。内モンゴルのモンゴル語にはts音はないので、ts→chとなり、したがってアルツはアルチという発音になる。したがって、アルツから作られたチーズはアルチン・ホロートといい、酸っぱいホロートという意味のフチテイ・ホロートとも呼ばれる。おおむねモンゴル国のアーロールと内モンゴルのアルチン・ホロートは似たようなものだが、元となる乳のどぶろくの製法が微妙に異なるため、全く同義というわけではない。

内モンゴルでは、乳のどぶろくの蒸留とは別のプロセスによって、酸っぱくないチーズの方がむしろ盛んに作られている。静置法によりジョーヘェを分離させるということはすでに述べたが、その下に溜まった脱脂乳も自然に酸敗して、エードスン・スーという乳製品になる。これを加熱してタンパク質を凝固させ、水分を切って乾燥させるとスーン・ホロードというチーズが出来上がる。モンゴル国では静置法は行われていないので、当然のことながらこのスーン・ホロートは作られない。

この他モンゴルには、ビャシラグという軟質チーズや、エーツギーという硬質チーズなどがある。ビャシラグは乳脂肪分を含んだまま作られることが多く、日持ちしない。エーツギーは乳清を除去しないまま煮詰めて作ったものである。

モンゴルの乳加工のうち、柱ともいうべき乳脂肪分の分離、脱脂乳や乳酒とチーズ製造の関係について、やや駆け足で見てきたが、だいたいのところはお分かりいただけただろうか。もちろん、ウルムの具体的な製法、どぶろくタイプの乳酒の多様な材料、馬乳酒の発酵原理、蒸留についての詳細など、より詳しく説明しようとすればいくらでも書けるのだが、それこそ一冊の本になってしまうので、今回はこの程度にとどめておこう。むしろ、枝葉末節にこだわって混乱するより、要点を押さえておいたほうがいいと思う。

さて、次回はいよいよ、バターオイルの精製についての説明である。ここまでの話で、まだよく分からないという方がいらっしゃったら、下記のURLをクリックして、メールフォームからご一報いただきたい。寄せられた質問内容に応じて、より分かりやすく記事を書き換えようかと思う。
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