モンゴル料理の醍醐味といえば、大きな骨付き羊肉の塩茹でであろう。調味料は基本的に塩だけ。いたってシンプルであるが、羊肉そのもののうまみで、ゆで汁も濃厚な出汁が出て美味しい。羊が豊富なモンゴルならではの料理である。

その他にも、ボーズ、ホーショール(内モンゴルではシャルビン)、バンシなどの羊肉を使った料理が豊富だ。材料は羊肉と小麦粉と少量の野菜。味付けはこれも基本的に塩だけである。

ただし、全てのモンゴル人が羊肉だけを食べているかというとそうでもなく、また塩味だけかというとそうでもない。

モンゴル国の都市部では、ロシアの影響もあってヨーロッパ風の味付けが好まれるようだ。最も多用される調味料は塩、胡椒だが、他にマヨネーズ、ケチャップ、固形コンソメ、ローレルの葉などがよく使われる。ツォー(モンゴル語でソースや醤油を指す語)と呼ばれるチェコ製のソースも一般的だ。稀にキャベツのサラダを作るときなどに酢、砂糖も利用されるが、極端に酸っぱい味付けは苦手なようで、料理に砂糖を入れることもほとんどない。また、概して辛い味付けは好まれない。たまに唐辛子を使用する人もいるようだが、ごく少数派であろう。スパイス類も苦手のようだ。ただし、ハーブにはさほど抵抗がないようである。モンゴルで売られている固形コンソメ(ロシア製?)には少量のハーブが含まれているし、モンゴル人が好むピクルスもハーブ味だからだと思われる。また、にんにくも比較的よく使われる。しょうがの乾燥粉末も市場で手に入るが、さほど一般的ではない。

モンゴル国の遊牧地域では、手に入る調味料は非常に限られている。ほとんど塩味だけか、たまに客人が来たときに食卓にケチャップが登場するぐらいである。それ以外の味付けにあまり慣れていないということもあるようだ。たまに野生のネギ、韮などが薬味的に使われる。

内モンゴルの都市部では中華料理の影響が強い。醤油、味噌、胡麻ペースト、黒酢、唐辛子などが多用される。生のしょうが、にんにくがよく使われるのも特徴である。たまに砂糖も使われる。スパイス類としては、中華料理でおなじみの五香粉、花椒などが好まれる。逆に胡椒はほとんど使われない。フフホトなどでは新疆出身者が屋台を出して串焼きの羊肉が売られているが、これに使われているクミンなどのスパイスにもあまり抵抗がないようである。ただし、モンゴル人自身が料理をするときにこれらのスパイスを使うことはない。ケチャップやマヨネーズなどは全く使われないといってよい。内モンゴルの都市部では中華料理を食べることが多いが、ボーズ、シャルビン、ベンシ(モンゴル国ではバンシという)などの民族料理であっても、様々な薬味や調味料を入れて味付けすることがある。味付けの仕方は同じ内モンゴルの都市部でも地方により、家庭により様々だが、醤油、五香粉などを入れて作ることが多いようだ。

内モンゴルの遊牧地域では、モンゴル国の遊牧地域と比べると人口が密集しているとはいえ、やはり買い物は不便である。そのため、調味料も都市部に比べると限られている。中華料理を作っても塩味だけということもある。乳製品が調味料的に使われることもある。煮込みうどんに発酵乳やミルクを入れたりする。日本人の感覚では奇異に感じられるかもしれないが、クリームパスタの類と考えれば納得できるだろう。地方により、生クリームの一種(ジョーヒーと呼ばれる)を使って煮込んだパスタ料理のようなものも存在する。