太古から遊牧を生業としてきたモンゴル人にとって、伝統的に油脂はご馳走であり、富の象徴でもあった。概してモンゴル人はこってりした味付けを好むようである。モンゴル料理を口にした日本人は、油っぽいという印象を抱くことが多い。
元来、モンゴルで食されてきたのはほとんどが動物性油脂だった。良質な牧草と天候に恵まれて丸々と肥えた家畜にほどよく付いた脂身は、肉の赤身部分よりもご馳走とされる。さらにその脂身を加熱することによって油が得られる。家畜の乳(主に牛乳)からも、シャルトスと呼ばれるモンゴル式バターが作られる。乳を加熱攪拌して乳脂肪分を分離させることによってウルムと呼ばれる乳製品を作り、さらにそれを加熱するという複雑な工程を経て作られる貴重品である。主にモンゴル茶に浮かべたり、パンにつけたりして食される。
近年、特に都市部においては、料理に使われる油はほとんど植物性油となっている。シャルトスなども、遊牧地域にいる親戚から送ってもらうなどしなければ入手困難であり、代わりに輸入品のマーガリンが日常的に用いられている(内モンゴルでは工場生産されたシャルトスを購入することができるし、マーガリンを食べる習慣はない)。脂肪の摂りすぎは健康によくないとの認識が広まりつつあるようだが、脂身は依然として好まれている。
我が家にモンゴルの友人が滞在していた時のこと。サラダを作ろうとしたら、冷蔵庫にはノンオイルタイプのドレッシングしか入っていなかったので、買い物のついでにドレッシングも別の物を買い足した。シーザーサラダ用のドレッシングだ。こってりしていて、ほんのりチーズ味で、いかにもモンゴル人が好きそうである。これでシーザーサラダを作り、好物のチーズとコーンをトッピングしたらこれがバカウケで、彼女のお気に入りメニューの一つとなった。ノンオイルタイプの酸っぱいドレッシングだったら、こうまでは受けなかっただろう。