「チンギス・ハーンとその時代に関する史料または文学作品」

(Ш. Нацагдорж, “Чингис хаан ба түүний үеийн талаарх сурвалж бичиг. зохиол”, Чингис хааны цадиг, Улаанбаатар.1991. より翻訳)

この何巻にも及んで書き綴られた元史は、元朝の崩壊後に成立した漢民族の王朝である明朝の歴史家たちによって編纂されたものである。この巨著には、現在では残されていない数多くの資料が利用されているだけでなく、間近に起こった出来事を検証して書かれているため、いずれも極めて多くの情報が含まれている。しかしながら、この書物は過分に明代の歴史学者が史実を歪曲して記述した面があり、誤った記述も少なくないという点を指摘しておかなければならない。

モンゴル古典籍院のメンバーであるダンダー氏は、同院のプロジェクトとして、元史を中国語からモンゴル語に翻訳する作業を行った。彼のこの業績は、モンゴル史研究における忘れがたい功績であり、後世のモンゴル人歴史学者のために残された記念碑的事業といえよう。

なお、元史の他には『皇元聖武親征録』というもう一つ重要な書物がある。この書物もまた、ダンダー氏によってモンゴル語訳がなされている。最近では、内モンゴルでも『皇元聖武親征録』が新たに翻訳して出版された。これは元々はモンゴル語で書かれた作者不明の書であり、元朝秘史に書かれている内容とほとんど一致している上に、全く記述されていない内容も含まれているという点が興味深い。

中国にはこの他、重要な文献として漢人である長春真人(邱処機)による「長春真人西遊記」という非常に貴重で珍しい書物も存在する。漢人の学者、長春真人がチンギス・ハーンの命により漢地から中央アジアに向けて長い旅を続け、チンギス・ハーンに謁見したことなどを克明に記録した実話である。