1930年代に西ヨーロッパでは、何度も再版されたエル・ハラ・ダワーの『チンギス・ハーン将軍とその遺産』、レンベの著による『全人類の主チンギス・ハーン』などが出版されたが、(これらは)チンギス・ハーンをあまりにも賞賛して持ち上げ、犯した過ちを正当化したもので、学術的な価値はそれほど高くなく、史実が半分含まれた小説というべきである。
一方、イギリスの学者ラリフ・フオックスによって書かれた『チンギス・ハーン』という書物は、上記の作品よりも学術的な見地からして極めて優れた作品である。1950年にはD. マーチンの『チンギス・ハーンの繁栄と北宋の征服』という作品が出版された。この作品の優れている点は、O.ラティモアが指摘した通り、西洋の学者たちはモンゴル人の遠征を単にチンギス・ハーンとその子孫たちが行った西方への遠征についてのみ言及し、東方、例えば宋に対して行った遠征については十分言及していない。しかしながらマーチンは宋を征服した出来事を特に詳細に研究している。さらに最も重要な点は、大量の漢語の文献を利用しているということだ。
チンギス・ハーンの伝記として個別に書かれたわけではないが、モンゴルの行った征服、モンゴル帝国、チンギス・ハーンの生涯について述べた数多くの作品が西洋で書かれている。それらのすべてをここで紹介するわけにはいかないが、特にその中で挙げておきたいのは、モンゴルの国外アカデミーの会員、国際モンゴル学会の初代会長を務めたモンゴル学者O.ラティモアによる多くの学術論文である。例えば、『中国の中央アジアの境界』(1940)という作品を挙げるべきであろう。O.ラティモアの作品では、中央アジアおよびモンゴルの遊牧社会の発展、その特徴について非常に興味深く、深い考察がなされている。