モンゴル国の都市部で一般的に手に入る野菜は、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、キャベツである。この他、トマトとキュウリもサラダに用いられる。近年ではピーマンも手に入りやすくなっている。以前は黄色いカブもよく食されていた。ちょうどジャガイモとカブの中間のような食感で、ホクホクとしておいしいのだが、最近では「あんなものは家畜の食べ物だ」と言われ、皆食べなくなったという。ボルシチの材料でおなじみのビーツ(赤カブ)も、日本に比べると手に入りやすい。モンゴルでもボルシチはしばしば食卓に登場する。この他にもウランバートルにあるメルクールなどの市場に行けばナス、大根、白菜、各種の葉物野菜、乾燥豆といった野菜も手に入るが、あまり鮮度はよくない。こうした市場はやや割高であって、一般庶民はほとんど近寄らない。そのため、これらの野菜を見たことはおろか、名前すら知らない人が多い。
モンゴル国の遊牧地域では、野菜は非常に手に入りにくい。手に入るとしてもせいぜい2~3種類で、日々の食事には野菜を全く使わないということも珍しくない。もともとあまり需要がない上に、保存や運搬にもコストがかかりすぎるのだろう。遊牧民は概して野菜を好まないが、すべての人がそうだというわけでもない。遊牧民が街に出てきたとき、野菜を食べたがるという話も聞いたことがある。調味料の項で述べたように、野生のニラやネギを食べることもあるが、使われるのはほんの味付け程度の僅かな量である。
内モンゴルの都市部では野菜は豊富である。とりあえず一通りの野菜は揃うし、日本では見かけないような野菜もたまに売られている。これらの各種野菜を使った中華風の野菜炒めは日常的に食されている。内モンゴルの人は、どちらかというと玉ねぎやキャベツのような洋野菜よりは長ねぎ、白菜などを好むようだ。このため、モンゴル国とは違って、ボーズ、バンシなどのモンゴル料理に玉ねぎを使うことはほとんどない。最もよく使われるのはニラで、その他、白菜、ニンジン、長ねぎなどである。
内モンゴルの遊牧地域では、野菜はやや手に入りにくいが、好んで食べられているようだ。春先の乳製品や肉の蓄えが枯渇した時期など、中華風に野菜炒めと米飯で食事をすることもある。遊牧民のお宅に行くときに、手土産に野菜を持っていくと喜ばれるという。トマトなども村の中心で手に入るが、どちらかというと高級品扱いされている。