昨日は近所のネパール料理屋に行った。我が家のナイR氏がインドカレーを作る趣味があるため、ちょくちょくナンを買いに行くのですっかり顔を覚えられている。ナンも自作すればいいじゃないかというツッコミが入りそうだが、やはりナンはタンドール釜で焼いたものがおいしいだろう。フライパンでホットケーキに毛が生えたようなナンを焼いてもあまり気分が出ないではないか。

ナンが焼けるまでの間、厨房の傍の席でチャイをサービスしてもらいながら、シェフ達とおしゃべりするのがいつものささやかな楽しみとなっている。あいにくネパール語はできないのだが、なぜか彼らはヒンディー語ができる人が多いので、私の怪しげなヒンディー語でもなんとか通じる。

さて、昨日はナイR氏と二人で訪れて、それぞれダルバートを注文して食べた。ダルバートとはダルカレーとライスがセットになった定食のようなもので、ネパールでは一般家庭でも日常的に食される国民食のごとき存在だ。タルカリという野菜の煮物やアチャールという漬物、サラダなどが添えられることもあるようだ。

注文のとき、飲み物は何にするかと聞かれて、じゃあ水でもくださいと言ったら、厨房で大きな声で「パニ」と叫んでいるのが聴こえた。しばらくして店長がやってきて、「パニって言ってたの、わかりましたか?」と言う。「タンダー・パニでしょ」と言うと納得したような顔をして奥に引っ込んでいった。ナイR氏もインドに行ったときには「エーク・パニ(水ひとつ)」などと言ってミネラルウォーターを買っていたので、覚えているかと聞くと、ぜんぜん記憶にないという。彼は覚えるのも早いが忘れるのも早いようだ。

ややあって運ばれてきたダルバートを食べていると、やはり評価が気になるのか、わざわざシェフが出てきて「カエセー・ラガー?(いかがですか)」とヒンディー語で聞く。「アッチャー・ラガー(気に入りましたよ)」と答えると嬉しそうな顔をして戻っていき、しばし厨房が沸いていた。女性形だとラガーじゃなくてラギーと言うべきだったのかもしれない。またしばらくして、店長が紙切れを手にして近寄ってきた。紙には日本語で「オクラ」と書かれている。私が「オクラ」と発音して、「ビンディー(オクラを意味するヒンディー語)」と付け加えると、頷いて「レディース・フィンガー?」と英語で念を押す。メニュー作りにでも使うのか、日本語で正しい書き方と読み方を知りたくて確認したのかもしれない。

食べ終わる頃、別のウエイターがヒンディー語でお下げしてよろしいですかと聞くので、「ティークハェ」と答えると、わざわざ「ティークハェ」と復唱しながらお皿を下げていく。すると今度は店長が「ガラム・チャイ」といってホット・チャイを持ってきた。いちいち反応するのは面倒になってきたので、黙っていると、もう一度「ガラム・チャイ!」と言ってこちらの顔を覗き込む。しかたなく、ナイR氏に向かって「温かいお茶だってさ」と説明した。みんななぜかいちいちヒンディー語を使いたがるが、これもサービスのつもりなのかもしれない。

外国料理のレストランに行って一番の楽しみは、料理はもちろんのことだが、やはりこうして外国語で現地人と会話することだ。外国料理は割高なことも少なくないが、現地に行った気分になれると思えば安いものだ。近いうちオクラ入りのカレーが新メニューに加わることを密かに期待しつつ店を後にした。