国外においてここ数年、チンギス・ハーンに関するいくつかの良書が刊行されたことについても、特に言及したい。これらには、Пауль Рачиневскийの『チンギス・ハーンおよびその生涯と業績』という1983年に出版された書物がある。同書では、歴史的資料を学術的に再度検討し、一部の史実について、新たな解釈を試みている。しかも、チンギス・ハーンの伝記、彼の歴史上で果たした役割と地位について正しい評価を下した優れた書であり、西欧において刊行されたチンギス・ハーンに関する作品の中では特に優れたものである。
チンギス・ハーンについてごく最近出された書籍の中では、内モンゴルの学者サイシャールが1987年に発表した『チンギス・ハーンの要綱』という2冊本がある。サイシャールによるこの書物は、後にも先にも、チンギス・ハーンに関して出された本の中で最も規模が大きなものである。サイシャールは、チンギス・ハーンの伝記、歴史に関するすべての文献資料、論文をくまなく調べ尽くし、チンギス・ハーンの生涯についての詳細な研究を行い、チンギス・ハーンがモンゴル史および世界史において果たした役割、そこに占める位置づけを精確に解釈することに務めた。また、サイシャールの更に優れている点は、歴史的な年代、地名などを調査して明らかにし、誤りを改めることに関して、極めて精緻な仕事を行ったことにある。
『チンギス・ハーンの要綱』は、チンギス・ハーン研究において多大な成功をおさめた、賞賛に値する作品として見做すべきことを特記しなければならない。
モンゴルの封建主義の時代の歴史について、国外で出された書物について言及するならば、日本の学者たちの研究についても触れておくべきだろう。日本の学者たちは、モンゴルの中世の歴史研究において、いうまでもなく第一の地位を占めているが、中でも元朝秘史を詳細に研究した小沢重男や村上、モンゴルの封建主義の歴史を研究した岩村、ヤナイらが挙げられる。その他にもチンギス・ハーンの伝記を記した書物は数多く存在するようだが、筆者(ナツァグドルジ)はタカイシ・カズフジの『チンギス・ハーン』という本が出版されたのを、内モンゴルの学者が翻訳出版したことを通して知ったのみである。