漢語で書かれた重要な資料にはこの他に、『蒙韃備録』、『黒韃事略』という二冊の書物があり、十三世紀のモンゴルの歴史、政治、生活、文学、軍事、道徳習慣に関して信頼に値する情報が含まれている。この二冊の書はモンゴル国で翻訳されたが、出版には至らなかった。しかしながら、内モンゴルの学者たちは『モンゴル文献集(Монгол тулгар бичгийн цуврал)』の中に上記の二冊の書を『皇元聖武親征録』とまとめて一冊の本とし、1985年に出版公開している。
モンゴルの歴史、特にチンギス・ハーンの歴史や伝記に関する漢語で書かれた資料は非常に多いが、これらのすべてを挙げるのはひとまず止めておき、他の外国語で書かれた文献について述べることとする。
まず挙げるべきなのは、ラシードゥッディーン(1247~1318)によって編纂された『集史』という巨著である。この書物は、ユダヤ民族で医師であった(ラシードゥッディーンによって)、現在のイランの地に成ったモンゴル国のガザンやウルジートらのハーンたちの治世の時代に、ハーンらの命を受けて書かれたものである。ガザン・ハーン(1271~1304)は、(中略)イランに成ったイル・ハン国のハーンであり、非常に学識と権力を備えていた人物として歴史書に記されている。
ラシードゥッディーンは、イランのモンゴルのハーンの宮殿にある書庫に収められていた『黄金の秘冊(アルタン・デプテル)』などの、現在では残されていない特に重要な資料を利用しているという点で、(『集史』は)特に価値が高い。