モンゴルの友人が、怪我の治療のために我が家に3ヶ月ほど滞在した。ただでさえ気苦労の多い外国暮らし。特に、怪我や病気で心身共に弱っている時には、できるだけ本人が楽だと思うような環境を整えてあげるのが一番である。そこで、毎日のお料理も極力モンゴル人の口に合うようにとかなり工夫した。
まず、来日後はスーパーに走って、モンゴルでも手に入るような野菜のみを大量に買い込んだ。根菜類御三家(私が勝手に名づけたのだが)であるジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ。そしてキャベツとトマトときゅうり。モンゴル人が日常的に食べつけている野菜といえばこのぐらいである。さらに、我が家のナイR氏には、会社帰りに肉のハナマサに寄って牛肉と羊肉を買ってきてもらった。そして小麦粉が数袋。最初はこれだけの材料だけでスタートさせた。味付けはモンゴル人好みに塩こしょうだけのシンプルなもの。たまに、本国でもよく使われるケチャップとマヨネーズも利用した。
様子をみて、週に1種類のぐらいのペースで野菜の種類を増やし、メニューも日本の家庭料理風なものを取り入れていった。ちょうど彼女は近々結婚をひかえているので、どうせだから色々な料理の作り方を覚えていきたいという話になった。そこで、モンゴルで比較的安価に手に入る材料を使い、かつモンゴル人の味覚に合わせた献立作りが始まった。
一番最初に食べさせたのはオムライス。チキンライスを卵で包んでケチャップをかけただけの古典的なやつで、オムライスの上に彼女の名前をモンゴル語で書いてあげたら大喜びで、写真に撮ってくれとせがまれた。次にトライしたのはトンカツ。これも大当たりで、日記帳に作り方をメモしていた。モンゴル人の嗜好を熟知している人にとっては意外かもしれないが、トンカツに添えたキャベツの千切りまで気に入ったという。「ブルドッグソースをかけて食べるとおいしい」と言うのだ。
ついには、大学ノートを1つ用意して、料理の作り方をメモしたレシピ帳を作成することになった。最初のうち本人は「ノートが60ページあるから、レシピ60種を覚えて帰る」と豪語していたが、結局最終的に伝授したレシピは25種となった。3ヶ月の滞在にしては少ないと思われるかもしれないが、モンゴル料理を作ったり、ナイR氏の要望で日本料理を食べた日もあったし、殺人的な忙しさだったので、お惣菜を買って済ませただけの日もあったからだ。
何はともあれ、色々と工夫した甲斐あってか、何を作って食べてもおいしい、おいしいと言って食べてくれ、「日本料理はおいしい」と固く信じたまま、無事帰国の途に着いたのであった。本当のところ日本には、モンゴル人の口に合わないような料理も山ほどあるのだが・・・・・・。