日本では、カワラナデシコは「大和撫子」とも呼ばれ、古くから日本女性の美しさを象徴する花として親しまれてきた。一方、中国原産のセキチクは「唐撫子」の名でも知られる。

興味深いことに、モンゴルにもこれらを思わせる二種類のナデシコが生育している。ひとつは жавхаалаг башир と呼ばれるエゾカワラナデシコ、もうひとつは алаг башир と呼ばれる Dianthus versicolor である。

花弁の先が細かく深く裂け、糸状に広がる姿は、日本のカワラナデシコによく似ている。日本で「大和撫子」と呼ばれるカワラナデシコそのものではないが、同じ Dianthus superbus に属する近縁の変種である。

そのため、花だけを見れば、日本人には「モンゴルにも大和撫子が咲いている」ように感じられるかもしれない。

日本語で一般に「セキチク」あるいは「唐撫子」と呼ばれる Dianthus chinensis とは別種だが、比較的幅のある花弁と、その縁に細かな切れ込みが入る姿はよく似ている。

そのため、日本語では「セキチク(唐ナデシコ)に近縁のナデシコ属の一種」と説明すると、その姿と分類上の位置が分かりやすい。

この二種には共通して башир という語が用いられている。

  • жавхаалаг башир — エゾカワラナデシコ
  • алаг баширDianthus versicolor

少なくとも現代モンゴル語では、башир がナデシコ属の植物名として用いられていることが分かる。

一方、Dianthus versicolor については、モンゴルの伝統医学を扱った2013年の研究で、チベット名として ba sha ka dmar po が記録されている。ba sha ka とモンゴル語 башир は一部の音が似ており、両者の関係を想像したくなるが、現時点で語源的なつながりは確認できない。

また、同じ資料では Dianthus versicolor に対して Umodeujin という名称も併記されているが、この語の言語的な位置づけは明確ではない。

「大和撫子」と「唐撫子」は、日本語の中では日本と中国を対比させる名称である。しかし植物そのものの分布は、そうした文化的な境界には収まらない。

日本のカワラナデシコによく似たエゾカワラナデシコはモンゴルにも生育し、セキチクを思わせる Dianthus versicolor もまたモンゴルの野に咲く。

日本語では「大和」と「唐」に分けて呼ばれてきた二つの花姿が、モンゴルの植物相の中にも並んで存在しているのである。

「大和撫子」という言葉にはいかにも日本固有の響きがある。しかし、その花の姿を少し広い視野で眺めてみると、よく似たナデシコたちは日本列島から大陸へと連なるユーラシアの自然の中に生きている。