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モンゴル語研究文献はどこにある(1)

モンゴル語を研究するためには、まず文献資料を入手しなければならない。当たり前といえば当たり前の話だが、英語などと違って、その辺の図書館に行ってぱっと借りたり、オンライン書店でぱっと注文したりとはなかなか簡単にはいかない。 モンゴル語研究の資料と一口にいっても、モンゴル語で書かれたものもあれば、他の言語でモンゴル語について書かれたメタ的なものもある。以下に、その主なものを分類してまとめてみた。 ��研究、分析の対象となる文献>・キリル文字モンゴル語資料・ウイグル式モンゴル語資料・他の文字によるモンゴル語資料 ��メタ的な研究文献>・モンゴル語によるモンゴル語研究書または論文・他の言語によるモンゴル語研究書または論文 「キリル文字モンゴル語資料」とは、主に近現代のモンゴル国で使用されてきたキリル文字表記によるモンゴル語で、この他、広義にはキリル文字を使って書かれたブリヤート語やカルムイク語の資料も含まれるだろう。「ウイグル式モンゴル語資料」とは、いわゆる縦文字で書かれたモンゴル語で、中世以降のモンゴル語資料、現代の内モンゴルで刊行されたモンゴル語資料、1942年の文字改革以前にモンゴル国で書かれたものなどである。数は少ないが、近年になってモンゴル国でもウイグル式モンゴル文字による文書が作成されている。「他の文字によるモンゴル語資料」というのは、たとえばパスパ文字やソヨンボ文字などで書かれたモンゴル語などで、その他、漢字で書かれた資料である『元朝秘史』やアラビア文字で記されたモンゴル語を含む対訳辞書の『ムカディマット・アル・アダブ』なども含まれる。 一方、モンゴル語研究について書かれた書籍または論文であるが、モンゴル語そのもので書かれたものと、モンゴル語以外の言語で書かれたものが存在する。モンゴル語によって書かれたものは、主にモンゴル国で刊行されたキリル文字モンゴル語によるものと、内モンゴルで刊行されたウイグル式モンゴル文字によるものである。その他の言語で書かれたものには、主に中国語、ロシア語、日本語、英語、ドイツ語、フランス語によるものなどがある。 これらの文献の入手方法としては、国内の外国籍書籍の蔵書が豊富な図書館から探す、外国図書を専門に取扱っている書店に注文する、自分で現地に行って購入する、海外にいる友人知人に頼んで取り寄せるなどの方法がある。もちろん、日本語で書かれた文献もかなり豊富にあるので、国内の図書館でモンゴル語関係の書籍を探してもよい。論文などはオンラインで全文が閲覧可能なものもある。海外の論文も同様である。残念ながら中国のサイトでは論文閲覧は有料のことが多いようだが、それでも探せばかなりの情報を収集することができる。さらに、ちょっとした情報だったら国内外のホームページを検索して知ることも可能だ。 ではまず、第一段階として、もっとも基本的な検索サイトの紹介から。http://www.google.com/intl/mn/ (モンゴル語版Google)http://cn.yahoo.com/ (中国語版Yahoo!)http://www.baidu.com/ (百度)

モンゴル語文献目録数種

既刊のモンゴル語書籍、定期刊行物、モンゴル研究書籍の書誌情報をまとめた本を集めたので、題名をメモしておく。 乌兰敖都 整理《蒙古报刊论文目录索引(1965-1985年)》内蒙古大学蒙古研究所, 1992.吉格木徳 領子 期古古冷 编《蒙古文图书目录(1951-1991)》内蒙古人民出版社, 1991.日本モンゴル学会『モンゴル研究文献目録(1900-1972)』, (発売元)株式会社ビブリオ, 1973.莎日娜 编《蒙古学研究参考工具书指南》内蒙古大学出版社, 2007.G.Kara, “The mongol and manchu manuscripts and blockprints in the library of the hungarian academy of sciences”, Budapest, 2000. 残念ながら、目録に書かれているすべての書籍は簡単に手に入るとは限らない。すでに散逸してしまったり、どこの図書館に保管されているか不明だったりするからだ。《蒙古学研究参考工具书指南》には、各文献の所蔵図書館名も記されていて便利だ。ほとんどが北京や内モンゴルにある図書館なので、どうしても閲覧したい資料があれば出かけていく必要があるかもしれない。運がよければ同じものを日本国内の図書館で閲覧できるだろう。 これだけでもモンゴル語研究のための文献をかなり網羅していると思うが、ロシアやドイツなどにもかなりの量の文献が存在するはずだ。故ハイシッヒ教授の蔵書目録など手に入らないだろうか。今度ちょっと調べてみることにしよう。

モンゴルの書函

中世のモンゴル語の本は、両面に文字が書かれた細長い紙が束ねられたもので、一枚一枚が綴じられずに独立しているものだった。このため、バリンタグと呼ばれる布にくるくると包んで保管するか、ショゴルという箱に収めて保管した。ショゴルは各お経のサイズに合わせて作られ、17世紀のものが広く使用されたという。主に良質の木材で作られ、茶や赤などで彩色が施された。また、彫刻や金彩色で縁取った模様による装飾なども行われた。ショゴルは主に木製だが、フェルトで作られることもあった。 バリンタグの画像は以下(モンゴル国立中央図書館ホームページより)を参照。 http://www.baigal.com/defaul1.jpg ショゴルの画像は以下(モンゴル国立民族図書館のホームページより)を参照。 http://www.nationallibrary.mn/PIC1/shogol.gif

モンゴル語インターネット講座

Learn Mongolというサイトでは、有料でモンゴル語のオンラインレッスンを受けることができる。http://www.learnmongol.com/ モンゴル国立大学教授のチョイマー博士による監修で、対訳や説明の書かれている画面を見ながら、クリックして発音を聞いたりして独習するシステムになっている。レッスンについて分からないことは、直接教師らに質問することができるという。 対費用効果についてはコメントを控えたいが、モンゴル語のレッスンもこのように手軽に受けられるようになったとは、時代の移ろいを感じざるを得ない。

モンゴル語の「オタス」

モンゴル語では、電話のことをオタスという。このオタスという語は本来は糸を意味する語で、広い意味ではワイヤーなども指す。おそらく電話としての意味は、電話回線のワイヤーのイメージから生じたものなのだろう。とはいえ、電話回線も電話線も電話機も一緒くたにしてオタスと呼ばれる。ちょうど日本語でテレビ放送もテレビ受信機も全てテレビと呼ばれるようなものである。 糸と電話が同じ単語というのはちょっと紛らわしそうだが、たいていは前後の文脈から判断することができる。連絡をとる話をしているときには電話の意味になるし、縫い物の話をしているならば当然、糸の意味になる。それでもどうしても曖昧な場合には、電話は「ヤリダク・オタス(話すためのオタス)」、糸は「オヨドグ・オタス(縫うためのオタス)」、「ユム・オヨホ・オタス(物を縫う糸)」などといって区別する。また、書き言葉では電話のことをテレフォン・オタスという場合もある。テレフォンはそもそも電話のことだし、オタスも電話の意味なので、厳密にいうと意味が重複していることになる。 しかし、やっぱりいろいろと気になることがある。果たして糸電話をモンゴル語に訳すとしたらどう言えばよいのだろう。もし直訳するならば、オトスィン・オタス、すなわち「オタスのオタス」という語になってしまう。いくらなんでも、これではどうもにしまりがないし、モンゴル人には通じないだろう。モンゴル人にもわかるように説明するとしたら、オヨドグ・オトサール・ヒーセン・ヤリダグ・オタスとでも言うしかない。縫うためのオタスで作った話すためのオタス、すなわち糸で作った電話というわけだ。 同様にして無線電話、すなわちワイヤーレス・フォーンも気になる。これも直訳してオタスグイ・オタスなどとやってしまうと、「オタスの無いオタス」となり、まるで禅問答のようなことになってしまう。昔、私が内モンゴルにいたときに、モンゴル人たちが無線機のことをヤリダグ・マシーンと呼んでいるのを見かけたことがある。話すための機械という意味だ。モンゴル国においても、地方の観光地のツーリストキャンプで本部との連絡用にパラボナ・アンテナを使った無線電話で通話しているのを見かけたが、これはアラジオ・オタス、すなわちラジオ電話と呼ばれていた。このアラジオ・オタスという語は、モンゴルの新聞の広告でも使われていた。 無線電話と似たようなものに携帯電話がある。昨今ではモンゴルでも携帯電話が普及しており、携帯電話はガル・オタス、すなわち「手の電話」と呼ばれている。中国語でも携帯電話は手机(手の機械)なので、ひょっとすると翻訳借用語かもしれない。書き言葉では、ウーレン・オタスまたはウーレン・テレフォンなどと呼ぶ場合もある。一見すると、担ぐという意味のウーレフという動詞に関係ありそうに見えるが、まさかモンゴルの携帯電話がそんなに巨大なはずはない。第一、担ぐ電話という意味だったらウーレン・オタスではなくてウールデグ・オタスになるはずだ。あちこち調べてみたところ、細胞という意味のウールという語から来ているようだ。これは英語のcell phoneからの翻訳借用語と思われる。また、ホドゥルゴーント・オタスという語もある。移動式電話という意味で、こちらはmobile phoneからの翻訳借用語だと思われるが、あまりこの言い方は普及していない。 さて、それでは「携帯電話ではなく回線電話の番号を教えてください」などと区別して言う場合にはどうするのかなどと心配する人もいるかもしれない。だが、これもちゃんとソーリン・オタスという語があるので心配要らない。ソーリとは基礎の、備え付けのなどの意味を表す語である。つまり備え付けの電話という意味だ。 なーんだ、つまんない、ちゃんと区別があるじゃないかと思っていたが、最近面白い単語を仕入れることができた。オタスグイ・ホルボーという語だ。無線通信という意味なのだが、文字通りにはオタスのない通信という意味になる。モンゴルの通信関係のサイトで調べてみたところ、無線通信は主に以下の2つに分類できるという。備え付けの無線通信と、動的(モバイル)無線通信である。先ほど、回線電話のことを携帯電話と区別して備え付けの電話と言うと書いたばかりなのだが、では備え付けの無線通信とはなんぞや、ということになってさらに調べてみると、「家庭や職場などで使用される無線通信機器」という説明があった。固定無線電話のことらしい。こんなことを調べているうちに、運良くモンゴル語-英語の情報技術用語辞書のサイトを発見することができた。モンゴル国の情報通信技術庁によるものだ。 http://www.itdic.edu.mn/index.jsp まだ正式な訳語が定められていないものも少なくないが、インターネット用語、プログラミング用語、通信用語などが網羅されており、はっきり言ってこれはすごい。他の人には秘密にしておきたいほどだ。こんなサイトを発見できたとは、新年早々、なかなか幸先がいいようだ。

モンゴル検定

モンゴルに関する知識を問う、簡単な検定を作成してみた。最も基本的な質問ばかりなので、おそらくこのブログの読者なら、たいていの質問に正解するだろう。成績は本人以外の誰にも公開されないので、ご安心を。 http://minna.cert.yahoo.co.jp/cjjum/335132

モンゴル語の地質時代

地質学に用いられる、地質時代を表すモンゴル語は、以下のサイトで確認することができる。ちょうどこんなものをずっと探していたところで、日本語の対訳ページもあってこれは便利だ。 http://mn.efactory.pl/%D0%93%D0%B5%D0%BE%D0%BB%D0%BE%D0%B3%D0%B8%D0%B9%D0%BD_%D1%86%D0%B0%D0%B3_%D1%82%D0%BE%D0%BE%D0%BB%D0%BE%D0%BB

蒙学三書

韓国で出版された『奎章閣資料叢書 語學編(八) 蒙語類解 捷解蒙語』(ソウル大学校奎章閣韓國學研究所, 2006)という影印本を入手した。これで『蒙語老乞大』、『捷解蒙語』、『蒙語類解』のいわゆる「蒙学三書」が揃ったことになる。なお、『蒙語老乞大』については、すでに『國學資料第3輯 蒙語老乞大』(西江大学校人文科学研究所, 1983)という同じく韓国で出版された影印本を入手済みである。 これらは、ハングルで記されたモンゴル語の教科書および辞書であり、モンゴル文字で書かれた文章の脇にハングルでルビが振ってあったり、漢字を見出し語としてその訳語が朝鮮語(韓国語)とハングル表記によるモンゴル語で書かれてあったりと、見ていてとても楽しいものである。いや、楽しいと感じるのは一部のマニアックな人だけじゃないの、というツッコミは置いといて・・・・・・。 さて、蒙学三書の研究状況であるが、現在最も盛んに研究を行っているのはおそらく松岡雄太氏(九州大学)であろう。氏は日本モンゴル学会、韓国の国語学会においても活発に研究発表を行っている。 過去には、小沢重男「中・韓・蒙・対訳語彙集 「蒙語類解」 の研究 (1) : 朝鮮語と蒙古語との若干の音韵対応にもふれて」, 『東京外国語大学論集』(1961)といった優れた論文が発表されている。同論文は主に、『蒙語類解』中のすべての語(漢語を見出し語とする)について、モンゴル語部分にローマ字転写をほどこし、それに対応する現代モンゴル語、モンゴル語文語、日本語訳を記したものである。 『蒙語老乞大』の研究としては、島根県立大学の井上治教授が金度亨氏と共同で、「蒙語老乞大 テキストのローマ字転写と和訳」という論文を『中國語學研究 開篇』に発表している。論文は2002年以来、各巻の転写ごとに毎年1本のペースで発表されている。 この他にも、竹内弘行「蒙学三書について」, 『名古屋学院大学外国語学部論集』(1995)という論文があるようだ。まだ確認していないが、こちらはひょっとすると啓蒙の「蒙」かもしれない。

国立国会図書館の近代デジタルライブラリー

国立国会図書館では、大正期、明治期の蔵書の一部を画像化してオンラインで公開している。現在(2008年11月)では約101,400タイトル(約148,200冊)が提供されている。 モンゴル語関係の資料はまだ少ないようだが、村田清平編『蒙古語独修』(岡崎屋書店, 1910)の本文画像を閲覧することができる。やはり画像の公開には、文化庁長官の裁定手続きなど、著作権問題をクリアしなければならないようだ。 http://kindai.ndl.go.jp/BIBibDetail.php