東京外国語大学付属図書館には、貴重なモンゴル語の木版本のコレクションが収められている。これらの一部は、同図書館で2003年に行われた特別展示のパンフレットから伺い知ることができる。 .http://www.tufs.ac.jp/common/library/guide/shokai/tenji4.pdf 以下の説明は、東京外国語大学付属図書館報『Castalia』第6号に掲載の二木 博史「木版文化の世界」からの抜粋である。 東アジアでは、金属活字を用いた印刷技術が普及する前の時代には、木版印刷が重要な役割をはたしていた。モンゴル語の印刷物の場合も、元朝以来の数百年にわたる木版の時代の後、短い石版印刷の時期を経て、20世紀の10年代から活版印刷が主流になった。 モンゴル語の木版印刷の代表的なものは、北京版とよばれる、おもに清代に北京で出版された書物である。東京外国語大学附属図書館には、約20点のモンゴル語の北京版が所蔵されてきた。ジャンルからみると、対訳語彙集と仏典が大部分である。これらは、1910年代から1940年代の時期に、当時の教官等によって北京で購入されたものと推定される。 さらに、現在進行中のCOEプログラム「史資料ハブ地域文化研究拠点」の予算により、モンゴル語の北京木版本を6点購入した。ロシア帝国時代、シベリアで刊行されたブリヤート版など、計11点の木版本も併せて購入したので、本学図書館のモンゴル語の木版本のコレクションは、40点ちかくになった。この所蔵数は世界に誇れるものである。 <出典>二木 博史, 「木版文化の世界——北京版モンゴル語文献を中心に——」, 『Castalia = 知の泉(東京外国語大学附属図書館報)インターネット版第3号』, 2003.
先日、ふと何気なしに本棚にあるモンゴル語の辞書の数を数えてみた。せいぜい20~30冊ぐらいだろうと思っていたのだが、先月モンゴルの友人に頼んで取り寄せたモンゴル語の専門用語辞典が加わってかなり冊数が増えたので、ちょっと確認してみようと思ったのだ。 数え始めてみると、あるわあるわで、ちょうど128冊だった。煩悩の数すら優に超えている。一部には一般的な辞書や復刻版のものなど、簡単に手に入るものも含まれているとはいえ、私がモンゴルに留学中に足しげく本屋、古書店に通って購入したもの、知り合いのツテで入手したものなども数多く含まれている。中には、もう二度と手に入らないだろうと思われるような希少本もある。 すでに、私の運営している「モンゴル語の穴ぐら(http://itako999.blog41.fc2.com/)」というサイトでは、モンゴル語辞書のデータベースを作成中である。私の蔵書だけでなく図書館の蔵書も含めて、重要なものからぼちぼちと紹介しはじめているのだが、何分すべて一人で手作業でやっているので、なかなか追いつかない。それでも今日は早稲田大学図書館の蔵書を中心に、近代のモンゴル語辞書、モンゴル語教科書の何冊かについてまとめることができた。 日本では、昭和初期にモンゴル語の辞書が何冊も出版された時期があったが、ここ10年ほどの間にも相次いで何冊か出版されている。これを個人的に第一次モンゴル語ブーム、第二次モンゴル語ブームと名付けたい。これが一時的なブームで終わってしまうことなく、日本におけるモンゴル語学の伝統を絶やすことなく、後世に伝えていければと思う。あまりたいした貢献はできないが、火種を守る火かき番ぐらいのことはできるのではなかろうか。 古今東西で世に出回っているモンゴル語の辞書は、専門用語集まで含めると、推定で400~500冊ほどなのではないかと思う。気の長い話だが、少しずつ目録を整理していこうと思う。
今日、モンゴルの乳製品についての資料をあさっていたら、田中克彦教授の論文を入手することができた。『一橋論叢』(1977)に掲載の「モンゴルにおける乳製品を表す語彙について」というもので、下記に示したURLにおいて公開されている。 http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/11636/1/ronso0770300390.pdf 論文の趣旨としては、梅棹忠夫「モンゴルの乳製品とその製造法」(1955)が、画期的かつ従来の研究のうち最も優れたなものである点を評価した上で、モンゴル国において発表された論文を参照しつつ梅棹論文の説明内容に疑問を投じ、さらに自ら考察にを行って、より合理的な説明付けを試みるというものである。 まず田中教授は、モンゴル語においては乳製品の加工法が動詞によって細かく区別されている点に注目し、出来上がった製品を中心としてではなく、工程を中心とした系統化を提唱している。 最終的に、モンゴルにおける乳加工を抽象化、簡略化して説明していくと、p19の2・4のような図としてまとめられるという。認知科学的な言い方をすれば、「スキーマの抽出」を試みたわけである。田中教授は言語哲学的なものの考え方をする人物であるし、同論文中ではパラダイムという用語が使われている。だから、あえて言語学的、哲学的に言うならば、「乳加工におけるパラダイムの発見」とでもいうべきか。 この論文は、ある程度モンゴル語に詳しい人でなければ、読んでもさほど面白いものではないかもしれないが、多少なりともモンゴル語に首を突っ込んで、乳製品の用語の複雑さに頭を悩まされたことのある人が読めば、学術的な興味を十二分に満足させられる(ぶっちゃけて言えば、分かる人が読めば、めっちゃめちゃ面白い論文なのだ)。 残念ながら、田中克彦氏は言語学の研究者らの間ではあまり高い評価を受けていない。その原因のひとつとして、記述言語学的な研究をあまりしてこなかったことが挙げられる。あまりにも高度な抽象化を好むあまり、個々の言語現象を軽視する態度が言語学者達の不評を買っているようだ。さりとて、現在の言語学界における一大潮流ともいうべき理論言語学からも一線を画す態度を取っている。それ故、田中教授の著作だけを読んで、言語学が分かったような気分になることはお勧めできない。 このようにいろいろと批判材料はあると思うが、主に若い頃に氏が精力的に行った研究の業績はそれを補って余りあるし、氏が一流の言語学者、モンゴル学者であることには変わりない。付け加えていうならば、言語学の真髄とは、一見無秩序で雑多な表面的な言語現象から、その奥に隠れた規則性および抽象的な構造を見出すことにある。
牛乳から作られるどぶろくは、馬乳酒とはやや製法が異なっており、とても酸っぱくてそのままでは飲めない。その多くは蒸留酒の原料となる。逆に馬乳酒を蒸留することは稀である。馬乳酒はそのままでも十分飲用に適しているからなどの理由による。 中央アジアには馬乳酒を作る習慣を持つ民族が多数存在するが、世界広しと言えども、乳から蒸留酒を作る技術を持っているのは、おそらくモンゴル人だけではなかろうか。しかも、驚くべきことに、お酒の蒸留はチーズの製造というプロセスと表裏一体となって進められるのである。 蒸留して作られたお酒はモンゴル語でシミン・アルヒという。シムとは栄養、エッセンスなどを意味する語で、アルヒとはお酒のことである。蒸留の際に出来る酒かすのようなものはアルツといい、最終的には水気を切って乾燥させ、アーロールという名のモンゴルチーズへと加工される。 モンゴル国では、チーズといえば真っ先に頭に浮かぶがこのアーロールだが、内モンゴルではホロートという語がチーズ一般を指す名称としてよく使われる。内モンゴルにもアーロールという名称はあるが、耳にすることは稀だ。内モンゴルのモンゴル語にはts音はないので、ts→chとなり、したがってアルツはアルチという発音になる。したがって、アルツから作られたチーズはアルチン・ホロートといい、酸っぱいホロートという意味のフチテイ・ホロートとも呼ばれる。おおむねモンゴル国のアーロールと内モンゴルのアルチン・ホロートは似たようなものだが、元となる乳のどぶろくの製法が微妙に異なるため、全く同義というわけではない。 内モンゴルでは、乳のどぶろくの蒸留とは別のプロセスによって、酸っぱくないチーズの方がむしろ盛んに作られている。静置法によりジョーヘェを分離させるということはすでに述べたが、その下に溜まった脱脂乳も自然に酸敗して、エードスン・スーという乳製品になる。これを加熱してタンパク質を凝固させ、水分を切って乾燥させるとスーン・ホロードというチーズが出来上がる。モンゴル国では静置法は行われていないので、当然のことながらこのスーン・ホロートは作られない。 この他モンゴルには、ビャシラグという軟質チーズや、エーツギーという硬質チーズなどがある。ビャシラグは乳脂肪分を含んだまま作られることが多く、日持ちしない。エーツギーは乳清を除去しないまま煮詰めて作ったものである。 モンゴルの乳加工のうち、柱ともいうべき乳脂肪分の分離、脱脂乳や乳酒とチーズ製造の関係について、やや駆け足で見てきたが、だいたいのところはお分かりいただけただろうか。もちろん、ウルムの具体的な製法、どぶろくタイプの乳酒の多様な材料、馬乳酒の発酵原理、蒸留についての詳細など、より詳しく説明しようとすればいくらでも書けるのだが、それこそ一冊の本になってしまうので、今回はこの程度にとどめておこう。むしろ、枝葉末節にこだわって混乱するより、要点を押さえておいたほうがいいと思う。 さて、次回はいよいよ、バターオイルの精製についての説明である。ここまでの話で、まだよく分からないという方がいらっしゃったら、下記のURLをクリックして、メールフォームからご一報いただきたい。寄せられた質問内容に応じて、より分かりやすく記事を書き換えようかと思う。http://form1.fc2.com/form/?id=79664 逆に「だいたい分かった」という方がいたら、下のボタンをクリックして拍手していただければ幸いである。
モンゴル語の乳製品の名称は、一見すると実に複雑至極に思われるかもしれない。しかしながら、いくつかのポイントさえ押さえれば、比較的分かりやすいのではないかと思う。私も可能な限り理解しやすく記述するよう心がけるが、読んでいる方もそれなりに注意深く読んでいただければ幸いである。 まず、以下にポイントを整理して挙げたので、目を通していただきたい。 a) 乳の加工は主に、脂肪分を分離し、残りのタンパク質を凝固させるというプロセスをとる。b) 脂肪分を分離する方法には、代表的な2つのやり方がある。c) タンパク質の凝固方法にも何通りかある。d) 乳酒には、どぶろくタイプのものと蒸留酒タイプのものがある。 乳製品の加工方法はモンゴル国と内モンゴルでは多少異なる。また、同じものを指していても、方言的差異によって微妙に呼び名が異なる場合もある。モンゴル語についての予備知識として、以下のことを頭に入れておいていただきたい。 ・モンゴル国のモンゴル語にはtsとchの音の区別があるが、内モンゴルのモンゴル語ではすべてchの音になる。・モンゴル国のモンゴル語にはzとjの音の区別があるが、内モンゴルのモンゴル語ではすべてjの音になる。 概して、乳から脂肪分を分離するのは、保存を容易にするためである。分離された脂肪分を精製すると、最終的にバターオイルのようなものが抽出される。これらは中間の加工プロセスが異なっていても、すべてモンゴル語でシャルトスと呼ばれる。 西洋では乳脂肪分を遠心分離によって抽出してバターを作るという方法が一般的だが、モンゴルでは伝統的には遠心分離法は行われない。モンゴルにおける代表的なやり方としては、大まかにみて加熱攪拌法と静置法という2つの方法がある(分類名は筆者が便宜的につけたもの)。 過熱攪拌法とは、乳を柄杓で掬い上げるようにして泡立てながら加熱し、凝固したタンパク質の皮膜の下に脂肪分を集める方法である。この方法で作られたものをモンゴル語でウルムと呼ぶ。ウルムはこのままで食べることもできるし、シャルトスなどの原料にもなる。この方法は、現在のモンゴル国において最も一般的な手法である。 静置法とは、生乳を静置して上澄みのクリームラインを集める方法である。このクリーム状のものは、内モンゴルのモンゴル語でジョーヘェと呼ばれる。分離するまでの間に乳酸発酵も同時に進んでいるので、やや酸味がある。このままで食べることもできるし、シャルトスなどの原料になる。モンゴル国において、静置法はほとんど行われない。モンゴル国のモンゴル語でジョーヘェに相当する語はズーヒーだが、全く別のものを指す。 これらの残りのタンパク質を凝固させ、乾燥させるとチーズが出来上がる。西洋のナチュラルチーズでは、乳酸発酵させた乳にレンネット(凝乳酵素)を加えて凝固させるという方法をとるが、モンゴルではレンネットは用いない。乳酸の力を借りる点は一緒なのだが、加熱によって凝固させるという点が異なる。モンゴルのチーズは塩味をつけない、熟成させないというのも大きな特徴だ。 凝固させる材料となる乳としては、主に以下のものがある。 ・[乳酸発酵+アルコール発酵]した脱脂乳・[乳酸発酵+アルコール発酵]した全脂乳・乳酸発酵した脱脂乳・全脂乳+酸乳・脱脂乳+酸乳 これらの原料となる乳の種類と、その後の処理の仕方によって、様々に異なる風味のチーズが作られる。モンゴル語でそれらは別々の名称で呼び分け、区別されている。理論的には、この他にも脱脂していない乳酸発酵乳からもチーズは作れるのではないだろうか。構造主義をかじったことのある人間としては、ちょっと気になるところである。まあ、その辺の細かいツッコミは後にして先に進もう。 モンゴル国では、前述のウルムを作った残りの脱脂乳をボルソン・スーと呼び、それを乳酸発酵させて生乳を加えて攪拌するという工程を経て、「脱脂した乳酸発酵+アルコール発酵乳」を作る。多くの場合、このプロセスに用いられるのは牛の乳であり、いうなれば牛乳で出来たどぶろくのようなもので、アイラグと呼ばれる。 モンゴル語では、もともと乳で作られたどぶろくのような酒を総称してアイラグと呼んでいる。だから、牛乳で作られたどぶろくは「ウネーニー・アイラグ」、馬乳酒として有名な馬の乳で作られたどぶろくは「グーニー・アイラグ」なのである。しかしながら、単にアイラグと言ったならばふつうは馬乳酒を意味するという点に注意しなければならない。 いよいよ説明が佳境に入ってきたが、続きはまた明日。
モンゴル人と切っても切れない関係にあるものとして、乳製品が挙げられる。モンゴル語では乳製品のことをツァガーン・イデーといい、白い食べ物を意味する。最近では、「モンゴルには乳製品が60種類ある」という話がまことしやかに伝わっているようだが、その実態についてちょっと検討してみたい。 モンゴルの食べ物のうち、乳製品についてはずいぶん古くから文化人類学者、歴史学者、乳製品研究家らの関心を惹き、まだまだ研究の余地はあるものの、かなり研究が進んでいるといってよい。当然のことながら文献の数も豊富だ。私も今回、この「モンゴル人の味覚」の続きを執筆するために専門書を2冊ほど買い足した。確かまだ実家にも、内モンゴルで出版されたモンゴルの乳製品に関する書籍があったはずなのだが、今回は都合で参照が間に合わなかった。また何かの折に、補足的な説明をする際に利用させていただこうと思う。 さて、前述の「モンゴルには乳製品が60種類」との説についてだが、おそらくは越智猛夫『乳酒の研究』(八坂書房, 1997) において引用されている金世琳氏の講演資料「内モンゴル伝統乳製品」での分類に端を発しているのではなかろうか。これは、「内モンゴル伝統乳加工経路図」として、乳製品を加工方法によって区分した樹形図のようなものに、1から60までの番号とモンゴル語名を付したものである。さらにこの図には、モンゴル語名と日本語カタカナ書きによるその発音、および解説をつけた対応表が附せられている。 なるほど、これによれば確かに乳製品を表す語として60語が挙げられている。しかしながら、よく見ると、純粋に乳製品と呼ぶには疑問ともいうべき名称も含まれている。モンゴル茶(乳茶)などがそうであるし、穀物と乳製品を混ぜたものなどはどちらかという乳製品を使った料理というべきだろう。また、「ハタスン エオツギ(注:標準語ではハタスン・エーツギー)」と記述のあるものに関しては、ハタスンは乾いたという意味のモンゴル語であり、完全にエーツギーとは別の食品であるとは言いがたい。ではいったい、日本の大根と切干大根や、柿と干し柿は同じ食品なのかと言われれば確かに困るが、ここでは単にある乳製品を乾燥させて「ハタスン」という語を冠しただけのものは、同じ食品として扱うことにしたい。 さて、そんなこともあって昨日は1日がかりで、諸資料をもとにモンゴル語の乳製品をまとめた表を自分なりに作成してみた。キリル文字のモンゴル語表記、モンゴル文字のモンゴル語表記、カタカナによる日本語読み、定義を対応表にしたものである。なお、資料の中には、私自身が現地の遊牧地域で聞き取りしたときのメモも含まれている。ここで腐心したのは、モンゴル国のモンゴル語と内モンゴルのモンゴル語との間の方言的な差異である。確かに国は違えども同じモンゴル人によって話されている言葉であるから、乳製品の名称も大まかには一致しているのだが、中には微妙にその指し示す意味が異なっていたり、全く別のものを指したりする語もあるのだ。内モンゴルでは日常的に用いられている語でも、モンゴル国ではほとんど使われていないような語もあるのだ。逆もまたしかりである。 いろいろと検討した結果、純粋に乳製品名というべき独立した名称は、せいぜい25語程度ではないかという結論に達した。小長谷有紀『世界の食文化-3 モンゴル』(農文協, 2005)にも、「微生物学的な見地からモンゴルの乳加工を検討すると、モンゴルの乳製品はほぼ30種であり、そのうち日常的なものは10数種類におよび、現在ほぼ毎日食べられているものは5種類前後である」との記述がみられる。これはモンゴル国、内モンゴルの別を問わず、おおむね実情に一致している。さらに、野沢延行『モンゴルの馬と遊牧民』(原書房, 1991)によれば、「乳製品はさまざまな工夫をこらし、全部で23種類くらいに作られている」とある。これらを総合して考えると、モンゴルの乳製品は約20数種類と言ってよいだろう。
モンゴルの軍隊で食べている携行糧食について、詳しく紹介したページがある。モンゴルの食料事情を知る上で参考になるだろう。http://10.studio-web.net/~phototec/ration/mongol.htm モンゴルの伝統食品であるボルツ、アーロール、エーツギー、ボールツァグなどの他、缶詰やレトルト食品、インスタント食品なども写真入りで紹介されている。
まず、ビトゥー・ホールの作り方を説明する。ビトゥー・ホールとは小麦粉の生地でひき肉の具を包んだ詰め物料理のことである。主にボーズ、ホーショール、バンシを指す。ボーズとは小包籠のようなもので、蒸して作る。ホーショールは平たく作り、油で揚げるかフライパンに多目の油をひいて焼いて作る。バンシは水餃子のことで、ゆでて作る。 これらの料理の作り方に共通していえることは、小麦粉とひき肉は同量を目安にするということだ。例えば小麦粉が300gならば肉も300g、小麦粉が500gならば肉は500gで作るとよい。もっもと、経験豊富なモンゴル人の主婦であっても包んでいるうちに小麦粉生地が余ったり、逆にひき肉の具が余ったりすることもあるので、あまり神経質に考えなくてもよい。 小麦粉の量は1人分あたり150gを目安にすればよいだろう。肉の量も同量ということだが、日本のスーパーでは256gとか342gとか、半端な量がパック詰めして売られているので、その辺は適宜加減しなければならない。スーパーで「羊肉を300gひき肉にしてください」などと頼めば一番手っ取り早い。その場で挽いてもらうなら、できればやや粗挽きにしてもらうとよい。 小麦粉の生地の作り方を説明する。まず、ポットのお湯に水を足してぬるま湯を用意する。目安としては、300gの小麦粉ならばぬるま湯の量は180ccほどだが、様子をみて加減して、耳たぶ程度の固さになるように作る。小麦粉にぬるま湯を少しずつ入れていって、ちょっとぼそぼそになったところでそれを捏ね続けていくととちょうどよい固さになる。 ひとまとまりになった生地はボールを裏返しにするか濡れ布巾をかけて乾かないようにして、30分ぐらい寝かせておく。この後で両手を使って力を入れてよく捏ねる。 肉は、もし固まり肉のままだったら自分で細かく切ってひき肉にする。半解凍ぐらいの固さにして切ると切りやすい。そこに玉ねぎのみじん切りを入れて塩こしょうで味付けする。玉ねぎの量は日本人の感覚からするとびっくりするほど少量だ。300g~500gだったら、中サイズの玉ねぎ半個ほどでよい。1kgの肉に半個しか入れないモンゴル人もいる。 先日、自分でバンシを作ってみた際、肉を自分で切るところから始まって、バンシが茹で上がるまでの所要時間は1時間半だった。モンゴル人が作ってもこれぐらいの時間はかかるだろう。
モンゴル料理の作り方は、英語のページだが、以下のサイトがお勧めである。このブログの読者の中には英語よりドイツ語に堪能な方もいらっしゃるようだが、同サイトのドイツ語ページをご覧になるとよいだろう。http://www.mongolfood.info/en/ 主なモンゴル料理が、ほぼ網羅的に途中の作り方の写真入りで紹介されている。特に生地の扱い方など、文章だけではなかなか分かりづらい部分もあるので必見だ。 小麦粉は、日本に暮らしているモンゴル人の中には薄力粉と強力粉を混ぜて中力粉にして使う人もいるようだが、薄力粉だけでも特に差し支えない。ちなみに、モンゴルでは小麦粉に等級があって、精白の度合いが強い順に特等、一等、二等として区別されている。二等は日本でいうところのいわゆる全粒粉で、精白の度合いが弱く、茶色っぽい色をしている。以前は二等の小麦粉は人気がなかったが、最近では栄養面で優れている、味がよいなどと人気が出始めているという。小麦粉は10kg単位の布袋に入れて売られることが多いが、量り売りもしている。 肉は、どのモンゴル料理でも羊肉を使うことが多い。理想的にはマトンだが、手に入らなかったらラム、それも無理だったら牛肉でもよい。懐具合によっては合いびき肉でもかまわない。 羊肉のひき肉の入手先だが、もし近所のスーパーで羊肉を置いているならば、奥でお肉の加工をやっている係の人に声をかけ、ひき肉に挽いてもらうという手もある。ただ、店内でひき肉を作っていないお店の場合、ミンチ器がないのでやってもらえないようだ。 あるいは、多少送料はかかるが、もし大量に作るのならネットで購入してもよいだろう。例えば下記サイトの「冷凍食品」のページなどでもマトンのひき肉が売られている。ただし、ハラール食品のお店の場合、当然のことながらハラール・ミートでと殺の方法が異なるため、味わいは本場モンゴルのものとはやや異なる。一般の精肉専門サイトから取り寄せてもいいだろう。http://www.kobegrocers.com/http://www.gourmet-meat.com/
「モンゴル人の味覚」の記事はまだまだ続くのだが、ひとまず置いておいて、先に作り方について触れることにする。まずは、道具について説明しよう。 モンゴル料理は小麦粉の生地を使うことが多いので、のし棒とのし板を頻繁に用いる。モンゴルでは多くの家庭で、まな板とのし板を兼ねた大きな木製の板を使用している。日本ではのし板は最近あまり見かけなくなったが、大きなスーパーなどで探せば手に入るだろう。シート状のものが売られていることが多いが、あまりお勧めはできない。理想的には木製だが、石製でもよいだろう。のし棒は日本でも売っているようなやや長めのものである。百円ショップで短いのし棒が売られているのを見かけたこともあるが、麺類を作ることを考えるとやや不便ではある。 もし本格的に作ろうとするなら、のし棒とのし板を揃えることをお勧めする。といっても、別に他のもので代用しても差し支えない。ビールの空き瓶やラップの芯をのし棒代わりにすることもできるし、大き目のまな板ならばのし板の代用になる。 包丁は特にこだわらなくてもよいだろう。ぺディー・ナイフのようなものを使うモンゴル人もいれば、中華包丁のようなものを使う人もいる。日本で作る分には、普通に家庭にある包丁で十分である。 鍋類としては、蒸し器があれば便利だが、もし無かったら鍋の底に水をはって茶碗などを置き、その上に皿を乗せて蒸すという方法もある。昔、私が始めてモンゴル料理に挑戦したときは、ちょうど手ごろな蒸し器がなかったので工夫して、この方法でボーズを蒸したものである。蒸し器を使うときには、蒸し板の部分にサラダ油などの油を塗っておくのがポイントである。この他、バンシや汁物、モンゴル茶を作るためにはやや大き目の鍋、揚げ物や炒め物用にはフライパンを使用する。これらは普通の家庭で使っているものでかまわない。 ちなみにモンゴルの遊牧地域では5リットルや10リットルも入るような巨大な半球状の鉄製の鍋が用いられている。これを竈にくべて使用し、煮物、蒸し物、揚げ物、炒め物のすべてをまかなう。蒸し物を作るときには、鍋に蒸し板を入れて蓋をして蒸すのである。乳製品の加工にも、もちろんこの鍋を使う。